Fate Grand Order
ポッキーゲームの勝敗
真名バレ有/藤丸立香×新宿のアサシン
その日、素材集めをかねた
人理修復を果たしてからというもの、魔術協会から派遣されるというお偉方はいっこうに訪れず、小規模な特異点ばかりが引き続き観測されている。逃げのびた魔神柱たちを一柱、また一柱と討ちながら、モラトリアムめいた空白の期間を、藤丸は漫然と過ごしていた。
(世界が元通りになってから、もうすぐ一年になる……のに。オレ、いつまでここにいていいのかな。いつまでだっていたいぐらいだけど、でもそんなわけにいかないし……。高校とか大学の勉強、いつするんだ、オレ……。)
頭を抱えそうになる。こうして一人で歩いていると、不安に駆られることが増えた。
役目を果たしたのだから、自身は元の日常に戻る――はずだ。もっと優秀なマスターも来るという話だし。英霊たちは皆個性が強いけれど、人の生きる世界を守りたいと思ってくれている人ばかりだから、オレがマスターじゃなくなっても、きっとうまくやっていくだろう。
それなのに、その日が来るのが、少しだけ怖いと思ってしまう。
「――もー、しっかりしろ、オレ!」
ぱん、と両手で頬を叩く。ひりつく痛みに、ちょっとだけ目が覚めた気がした。ぐだぐだ悩むのは一分あれば十分だ。とにかくご飯だ。お腹が空いてるから、暗いことを考えるんだ。がばっと顔を上げて食堂のドアを見つめる。と、ちょうどそこにいた少女と目が合った。
彼女は先ほどから藤丸を見ていたらしく、驚いたようにふわっと口を開けている。
「ま、……マシュ。」
「せ、先輩。」
自身の“後輩”であり、大切なたった一人の正式契約済みデミ・サーヴァント、マシュ・キリエライトだった。
薄い色素の髪からのぞく瞳が、困惑の色を宿している。藤丸はかあっと頬が熱くなるのを感じた。
「えっと、見たよね……?」
「先輩が、ご自身の頬を打たれたところを、でしょうか? 見ました。……というよりも先輩、痛いのでは!?」
彼女の困惑が徐々に心配へと変わっていく。とたんに、ぱたぱた駆け寄ってきた。
とても赤いです、と頬を撫でられ、ますます赤面してしまう。違う、違うんだマシュ。これはひとえにオレの気恥ずかしさが成す業で。
「い、医務室に!」
「や、大丈夫。そんなに強く打ったわけじゃないから。安心して。」
「そう、でしょうか……? とても赤いように見えましたが……。あ、でも、腫れてはいませんね。一時的に血流がよくなっただけ、ということでしょうか。」
「そう、そういうことにして……。ホント。」
マシュの顔がまともに見られないまま、コクコクうなずくと、ようやく彼女は手を離してくれた。見上げられている気配を感じながら、食堂へ入ろうとする。と、それを素早く制された。
「先輩! しょ、食堂へ行かれるのは、今はやめた方が。」
「え? 何かあるの? そういえば、何か聞こえる……やけに賑やかだね?」
耳をすますと、中から笑い声が聞こえてくるのがわかる。それも数人のものではない。もっと大勢が集っているような、催し物でもやっているかのような盛況ぶりが伝わってきた。
楽しそうな空気だが、マシュが引き留めてくるということは、どうにも良からぬことが起こっていそうな気がする。
ためらっていると、中からの声が一際大きくなった。わあっと歓声が響いてくる。好奇心と警戒心の天秤がついにカタンと傾いた。
足を踏み出す。マシュが、あっ、と声を出すのが聞こえた。
扉が開かれる。視界が一気に開けた。同時に、割れるような笑い声と、目を疑うような光景が眼前に広がる。
――食堂のテーブルやイスが、中央を囲む形で円状に並べられ、その真ん中で荊軻とジキルがポッキーをくわえ合っていた。両端から。
「……ッええー!! な、何してんの二人とも!?」
思わず大声が出る。何名かがこちらを振り仰ぎ、マスターだ、主だと笑った。それを聞いたらしいジキルが、ちらっと横目でこちらを見ようとする。そのせいで顔が動いたのか、ぽきっと軽い音がした。
荊軻につながる棒の芯が折れる。二人の顔がすっと離れて、すぐに怒号が飛んだ。
「コラァ、モヤシ! テメエ、何負けてんだよー!」
セイバーのモードレッドだ。ジキル側の席に腰かけて、戦況を見守っていたらしい。酒瓶を片手に怒鳴りながら、頬を赤らめている。かなり酔ってるなアレ。と思ったがよく見るとそこら中に酒瓶が並んでいた。皆酔ってる。何これ!?
「えっと、重ねて聞いていい!? 何してんの皆!?」
「なにって、ポッキーゲームだぞー、マスタァー。」
荊軻が手を振ってくる。すごくニコニコで機嫌が良さそうに見える。というか、今何と仰いました? ポッキーゲーム?
「うふ、それについてはわたしから説明しますわね、マスター。」
するっと寄ってきてくれたのは、まだ酔いが浅そうに見えるマタ・ハリだった。彼女もいつになく上機嫌だ。
「とても簡単にご説明しますと……ほら、アサシンたるもの、ポッキーゲームのひとつも出来ないと駄目でしょう。」
「うん……うん? へっ?」
「せっかくの十一月十一日、日付も並ぶ良い頃合いだったから、わたしと荊軻でひとつ催しを、と思ったの。調理場の方々にもお手伝い頂いて、宴もたけなわ……というところでマスターのご登場。とても素敵だわ。一本いかが?」
ひょいっとポッキーを差し出される。流されるままにくわえると、マタ・ハリはにっこりとほほ笑み、そのまま後ろのマシュにまでポッキーを渡しにいってしまった。マシュはあわあわしている。
大丈夫かな、と思いつつ、周囲を見渡してみた。アサシンたるもの、というあたりで予想がついたが、周りにいるのはほとんどアサシンクラスのサーヴァントだ。さすがに山の翁とかはいないみたいだけど。照れを隠すように複雑な顔をしたジキルと、彼の背をバシバシ叩いて大笑いするモードレッド。イスに深く座ったまま項垂れているサンソンに、首をかしげてポッキーを渡そうとするマリー、その後ろでけらけら笑うモーツァルト。次は
なるほど、アサシン勢ぞろいのお祭りらしき雰囲気は感じる。しかし何でポッキー。相変わらず頭に浮かぶハテナに答えをくれる者はなく、次は誰ー、と荊軻が叫ぶのが聞こえた。
「次ー、なあ次、はやくー。あ、もう燕青、君でいいや。来い来い。」
「あちゃー、とうとう俺かあ。」
燕青、と呼ばれたサーヴァントが、イスのひとつから立ち上がった。呆れたような、やや忌諱するような顔をしている。酔い通しの周囲がまた湧いた。
待ち受ける荊軻はかなり上体が不安定で、すでに相当出来上がっているようすだが、挑む側の燕青は飲んでこそいるものの、まだまだ素面に見える。どうするんだろ、と思いながら見守っていると、燕青は手に持っていた酒瓶を荊軻に投げた。受け取った荊軻は、ぱきっと軽く開けて呷る。
「姐さんよ、いい加減飲み過ぎじゃねーか? ここいらで席を降りるのが賢明だと思うがねえ、俺ぁ。」
「んっ、……ぷはっ。えー? そーかなー。いいでしょ、たまにはさー。こういうのも。」
喋りながら、ごくごくと酒瓶を直で飲み、あっという間に空けてしまう。凄いなあ、と素直に思っていると、今度はポッキーをくちびるで挟んだ。ちょいちょい、と指で合図する。燕青は肩をすくめ、迷うように足先で床を蹴った。
「新宿のー! はよう男見せんかい!」
「イゾー、うるさい。」
「むごぉっ!?」
「お竜さん、人の口にいっぱいポッキー押し込むのはやめようね。」
囃すように叫んだ岡田以蔵には、そばに浮かんでいたお竜が大量のポッキーでもって応える。かたわらの坂本龍馬が穏やかに制していた。
やがて、総員が固唾を呑むように見入る形になってはじめて、燕青はゆっくりと踏み出す。舞踏でも披露するように静かに、軽やかに進んでいく。音もなく荊軻の顎を取り、たたえた笑みを崩さないままで、すっと菓子に口をつけた。
麗しい男女が顔を寄せ合う。燕青がわずかに口を開くと、その分だけ距離が縮まった。ひどくのろのろと詰められる。きゃあ、とマリーが嬉しそうに声を上げるのが聞こえた。藤丸は黙ってそれを見つめる。
残る距離が、もとあった距離の半分ほどになって、ふらっと荊軻の体が傾く。菓子の折れる軽い音がした。
そのまま、床へ落ちる。ぐんにゃりと力を無くし、倒れ込む一歩手前のところで、燕青の籠手が彼女を抱き留めた。
ふいー、と肩を鳴らす仕草をする彼に、数秒食堂が静まり返る。そして、ええーという残念そうな声が上がった。
「ええー、は無いだろ皆々様よ。ご覧の通りちゃんとやったろー?」
燕青が笑いながら、近くのイスに酔い潰れた荊軻を座らせる。最後に飲んだのが効いたらしい。その寝顔は満足気で、いい夢を見ているようだった。しかし残された燕青には消化不良の観客から不満が浴びせられている。笑顔でいなしているものの、ちょっと心配に思っていると、両肩をぽんと後ろから包まれた。
ぽよん、とやわらかいものが背に当たる。うふふ、と声が聞こえた。アルコールに混じって、ほのかにいい匂いがする。
「マスター、大変。彼、困ってるわ。助けてあげないとね?」
「ま、マタ・ハリ。助けるって、」
どういう。そうたずねる前に、もう一勝負といきましょうか、と明るくマタ・ハリが言った。優しく押される。よろよろと中央へ踏み出して、燕青と目が合った。
「最終のカードは、マスター対新宿のアサシン――もとい燕青、というのはいかが?」
マタ・ハリがたおやかに中央の二名を指す。燕青の笑顔がわずかにこわばった。
食堂に、男たちの囃し声、黄色い歓声、悲鳴に近い驚きの声が入り混じって木霊する。その声量に押し出されるようにして、ふらふらと燕青に歩み寄った。
燕青は、やや後ろへ下がる。困ったような顔をして、じっとこちらを見ていた。まさかこんなことになるとは、彼も思っていなかったに違いない。周囲のサーヴァントたちはすっかり酔っぱらっていて、どうにも退けない雰囲気だった。
わあ、オレ、ポッキーゲームとかほとんどしたこと無いんだけど。まさか男性サーヴァントとするとは。
「あ~……マスター、アレだ、すぐ折っちまえば何てこと、」
動揺しているのを察してか、燕青が小声で提案してくる。それを遮るように、わざと負けるなよ、という主旨の注意が飛んだ。燕青はややジト目になって声の方向をにらんでいる。
どうしよう。いや、ポッキーゲームするだけなんだから、どうしようもこうしようも無いか。そう思って、近くのテーブルに居たハサンたちからポッキーをもらう。燕青が、あんた乗り気だなあと呟くのが聞こえた。
「いや、まあ、別にオレ、そんなに嫌じゃないし……。」
「へええ? 確かに見目はかなりのモンだと思うがね、どう見たって男だぜ? 好き合ってもない男と、ツラ付き合わせてこういうのはさあ。少なくともマスターみたいな、まともな人間は嫌じゃないのか。」
「うーん……それはいいんだけど。オレ、正直キスって母さんとか保育園の友だち相手にとか、それぐらいしか経験なくてさ。だから、ヘタだったらごめんね。」
言ってから、燕青にポッキーを手渡す。彼は受け取ったきりかちんと固まっていた。
「新シンさん?」
「……、……。その渾名、まだ続投なのかあ?」
「あ、燕青って呼んだ方が、やっぱりいいの?」
「どっちでもいいよお。どっちでもいいんだが……今呼ばれるとなんだかなあ!」
彼は眉を下げて笑い、ポッキーのクッキー生地のほうをくわえた。おおっと歓声が大きくなる。藤丸はそろそろと近づいた。そばまで来てみて、ポッキーの先端がちょうど口もとに来ることに気づく。燕青と自身の背丈がほぼ変わらないからだろう。やりやすいな、と頭のどこかで思った。
無意識に、燕青の両肘を手でつかむ。目を閉じて、ぱくっとひと息にチョコ側のはじをくわえた。
すうっと息をのむ音が響く。キャー! という女性陣由来の甲高い声も聞こえた。この状況、清姫がいなくて良かったかもしれない。
さくっ、と噛み進んだ。カルデアシェフらの手づくりらしいポッキーはとても美味しい。出来立てはもっと美味しかったのかな、これ何時間くらいやってたんだろ。ぼうっと考えながら抵抗なくさくさく進んだ。ビクッ、と燕青の腕が跳ねるのを感じて、不思議に思い薄目を開ける。
燕青の顔が、とても近い。ぼやけてあまりよく見えない。白い肌に色づいた刺青だけが辛うじてわかる。
――もしかして。あれだけ嫌だろうってカンジに聞いてきたのは、燕青が嫌だったからなのかな。だとしたら悪いなあ。
思いながら、さく、さく、と噛みしめていく。鼻先に燕青の鼻が触れた。もうこんなに進んじゃったんだ、ホントにキスしちゃうなあ。燕青、大丈夫かな。労わるように、詫びるように、燕青の肘を撫でると、ふっと燕青が笑うのがわかった。
腕が震えて、息が漏れる。何だろうと思う間もなく、くっとポッキーが固定されたかと思うと、見事にぽきりと割られた。燕青の顔が一気に遠くなる。
わああ、だかきゃああ、だかの大声が広い食堂に響き渡った。
「あら、燕青の負けね! うふふ、これは意外な結果だわ。」
マタ・ハリが高らかに勝敗を告げる。歩み寄ってきた彼女から、優勝のマスターには豪華な賞品を贈呈ね、とささやかれて、棒状の菓子の詰め合わせのようなものを大量に手渡された。
ちらりと燕青の方を見る。彼はアサシンの皆に囲まれて、最後に照れたな、臆したな、と散々な言われようで、それを否定するでもなくポッキーの欠片をくわえたままでいた。
燕青、と呼ぶ。彼はあいまいな表情のままで近寄ってきて、菓子の詰め合わせをほとんど持ってくれた。一旦部屋に置きにいっていいかたずねると、こくりとうなずいてくれる。
食堂から出る途中で、真っ赤な顔をしたマシュを見つけた。びっくりして、顔が赤いよと言うと、はいと困ったように返される。
「わ、私も、なぜこんなにどきどきしているのか……はっ、とにかく、優勝おめでとうございます。先輩。」
「うん、ありがとう、……でいいのかな?」
「夕飯はお菓子で済まされますか? 栄養バランスは市販のお菓子よりずっと良いらしいのですが……。何か、用意しておいた方がいいでしょうか?」
「お菓子が晩ごはんはアレだよね。何か食べるよ。マシュも一緒に食べよっか。また後で来るから、その時に。」
「はい、先輩。あ、燕青さん、私も持ちましょうか?」
「あー、いや、問題ないよお。マシュも酔っ払い連中に巻き込まれないよう気をつけてな。」
それだけ話すと、マシュはリンゴのような頬を両手で覆いながら、照れたように笑って、厨房の方へ向かっていった。
燕青と一緒に廊下へ出る。扉が閉まると、喧噪は遠くなった。かさかさとお菓子の包みが音を立てる。
隣を歩く燕青は、ようやくくわえていたポッキーの切れ端をゆっくりと食んでいて、何か考えごとをしているように見えた。
ごめんね、と声に出す。藤丸はちょっと迷ってから笑った。
「燕青、オレのこと気にしてくれたんでしょ。気にして負けてくれたんだ。」
「ん~~……。それも、あるっちゃあるんだがねえ。」
「それだけじゃないってこと?」
意外な返事だった。原典に色男の太鼓判を押されている浪子燕青が、キスひとつにためらうとはどうにも思えない。びっくりして横顔を見つめると、彼はまだポッキーを噛んでいるらしく、もぐもぐと口を動かしていた。ごく、と呑みこんでから、息を吐く。
「もっと、慌てふためくかと思った。」
「……オレが?」
こくりと燕青がうなずく。なるほど。それはそうかもしれない。
「だってのに、ぜんぜん緊張してるように見えねえし、腕まで掴まれるし、どんどん進んで来るしで……ちっとばかし焦った。そんだけ……なんだけどなあ。」
こっちを見ない燕青の、薄い色の頬が、少しだけ染まっているように見えた。
藤丸は、なぜだか嬉しくなった。色ごとには慣れ切っているであろう彼を照れさせられた、という達成感が大きくて、その他の感情に思い至らない。へへと笑うと、何で笑うのマスター、と拗ねたように彼は言った。
「だって、つまりそれって、オレ、燕青にちゃんと勝ったってことでしょ。」
だから、やった、と思って。そこまで声に出してしまうと、とうとう藤丸は笑い声を上げた。燕青に勝てるところなんて、自分にはちっとも見当たらないのだ。こんなゲームでも一勝できたのが驚きで、面白くて、楽しい。主君が素直に顔をほころばせるのを、燕青は静かな目で見ていた。
自室へ辿り着く。ドアが開いて、無機質な部屋へと入る。どこへ置こうかな、とりあえず棚の上に、と歩いていくと、一足先に燕青が荷物を置いて、藤丸の持つ菓子も受け取り、重ねて並べた。
両手が空く。肩の荷が降りた気分で、燕青もご飯一緒に、と言おうとして、彼が藤丸の行く手を塞ぐように立った。
「あんた、さあ。」
「うん? どうしたの?」
「さっき、俺とキスしても良かったんだ。実質ファーストキスだってのに。」
「え? うん。だって――」
燕青、キレイだし、嫌なカンジ全然しないし。そこまで言うことができなかった。
彼の黒髪がふわりとなびいて、唇にやわらかいものが触れる。少しかさついた自身のそれとは違い、ぬるく潤っていた。感触を味わう間もなく数秒後には離れていく。ぽかんと口を開けていると、燕青はやや得意げに、そしてどこか妖しく笑みを浮かべていた。
「俺も、負けっぱなしは性に合わないんでね。有難くもらっとくよ、マスター。」
「……わお……。燕青、ずるい。」
つい唇を押さえる。やわらかかったな、と思ってしまう。燕青は瞳を細めてから、くるっと背を向けて歩いていく。
「呵々、これに懲りたら、あんま軽率に安売りしないこったな。」
「えー……気をつける……。あ、晩ごはん、一緒に食べないの?」
「あんたホント気楽だなあ! いーよ、俺は! マシュが待ってんだろ、早く行ってやんなよ。」
足早に出ていく。待ってよ、とその背を追ったが、廊下まで出ると彼の姿は消えていた。霊体化したのかもしれない。
ずるいな、とひとりごちた。反論はない。勝ったはずなのに、半分ぐらいは負けた気分で、とぼとぼ食堂へと歩いていった。