淫魔の王
本編
絶頂地獄と隷属の淫紋
傾向:連続絶頂/濁点喘ぎ/触手/スカトロ/グロ
蔦と黴に覆われた屋敷の玄関ホールに『それ』はいた。
深海に秘められた二枚貝からたった今まろび出たかのような真珠じみた青白い肌。明かりに乏しい邸内にあって月のように煌々と周囲を照らしている。闇に浮かぶ細い手足にまとわりつく髪は紫がかったブルネットで、檻のように『それ』を包みながら黒ずんだ床まで垂れ落ちていた。
鮮血に似た赤い眼が哀れな侵入者たちを射抜く。魔物しか持ち得ない異様の色彩に圧倒され、屋敷に押し入った兵士たちはたたらを踏んだ。
もっとも、彼らが歩みを止めたのは『それ』だけが原因ではない。
眼前には生まれてこのかた見たことがない、おぞましいとしか形容できない光景が広がっていた。
「⋯⋯ぉ、お゛ほっ⋯⋯んぉ゛っ⋯⋯」
「あ゛、ぁ、ァ、⋯⋯っ⋯⋯あっ⋯⋯」
ヌチュル、ブチュ、と音を立てながら奇怪な粘液を振り撒くモノ――太さも長さもバラバラな、植物のツルにも海洋を泳ぐ蛸の足にも見える、無数の触手の群れ。捕えた獲物の身体にまとわりつき、疲れを知らぬ動きで延々と責め立て、その魂までもを挫くとされる呪われた化物だ。
そんなおぞましいモノが、屋敷の壁という壁を埋め尽くし、絶えず甘ったるい腐臭を空間へと噴き出している。広い玄関ながら、触手に囚われた人間が形づくる『肉塊』がそこら中にあり、見通しは悪く、足場もボコボコと隆起して不安定だった。
(悪魔たちが住む魔界にはこんな景色が広がってるのか⋯⋯?)
兵士たちに先導されて足を踏み入れた赤毛の青年――ザックはそう胸中で呟いた。
数年来の相棒である片手剣はまだ抜いていない。天井からポタポタと粘液が落ちて頭や肩を濡らすたびに意識が逸れるのが不快だった。
目の前には、足の細い長椅子に肢体を委ね、うっそりと目を細めている『それ』がいる。
容姿こそヒトに近いが、獣じみた第六感でもってその場にいる全ての人間が理解していた。『これはヒトではない。それどころか、人類の味方ですらない』と。
「お前が淫魔と人の混血児か?」
哀れな呻きと粘液が捏ねられる音が響き続ける部屋の中、その澱んだ空気を振り払うように、腹に力を込めてザックは尋ねた。
『それ』は聞こえていないのかと思うほど微動だにせず、ただぼうっと目線をこちらへ向けて――やがて発した。
「だから、話ができるとでも?」
澄み切ったボーイソプラノは教会で聞いたとしても遜色ないほど美しい。しかしその言葉は余りにも冷酷で、油断というほど気を抜いていなかったザックでさえも身構えることができなかった。
丸太のように太い触手が床から飛び上がり、身体に巻き付いてくる。
「なっ、く⋯⋯うあ゛っ!」
咄嗟に振り払おうとした手は別の触手に阻まれ、あっという間に頭の上で拘束された。お守り代わりだった剣はうっとおしげに叩き落とされ、触手にまみれて見えなくなる。シャツの襟から、皮鎧やブーツのすき間から、ミミズのようにのたくる異物がズルズルと入り込んできた。
「うわあぁあっ、やめっ、なんだよコレッ!」
「聞いてない、聞いてないぞっ!!」
「嫌だ、触手の苗床になんかなりたくないっ、嫌だ、いやっ⋯⋯ひいいぃぃッ!!」
兵士たちの悲鳴がむなしく木霊する。ザックは両手を引き抜けないか試し、足で触手を振り払えないか試行錯誤し、その全てが徒労に終わるのを感じ取った。
いまや身体はブヨブヨとした異形の軟体に覆われ、染み出す粘液を執拗に肌へと塗りたくられている。もはや『肉塊』に成り下がるのを待つしかない状況と言えた。
敏感な部分を這い回られる刺激に身を跳ねさせながら、どうにか『それ』を睨みつける。
「六、七⋯⋯十はいるか。また女はいないんだな。孕ませやしないのに⋯⋯」
「女の方が、いいのか」
ようやく立ち上がって侵入者を数え始めた『それ』に声をかけた。『それ』はぱちっと瞬き、まるで罠にかかったネズミを眺めるような、同種の存在に向けてとは思えない冷淡な表情を浮かべる。
『それ』の眼が柘榴のように一層赤く染まった。同時にびくりと身体が強張る。
しかし、ザックは不敵な笑みで返した。
「悪いな。淫魔の術は効かないんだ。そういう体質だから、この仕事を任された」
『それ』は僅かに片眉を上げた。予想通りの反応にどこかほっとしながら、ザックは嬌声を上げまいと奥歯を噛み締める。
「あんたに召集がかかっている⋯⋯王から直々にだ。俺たちは生贄じゃなくて使者だよ。この触手を放してくれ」
「そう」
それだけ返事して、『それ』は考え込むように顎へ手を当てた。
触手の動きは止まらない。脇腹を不規則に盛り上がった幹でもってじっくりと撫で上げ、つんと尖った乳首を優しく食んでは潰し、陰茎は粘液まみれの熱い肉筒で呑み込んでグチュグチュと扱き、後ろの穴を細い触手が面白がるようにつぷつぷと突いてくる。
ガクガクと足が痙攣した。耳が紅潮しているのが分かる。陰茎は完全に勃起して脈打っている。屋敷へ入る前にもう一滴も出ないと思うほど抜いてきたのにも関わらずだ。
(顔はッ⋯⋯赤くならない、タイプで良かった⋯⋯っけど、これっ⋯⋯あぁぁっ⋯⋯! ヤバイ、本当にヤバイッ、あ、ダメ、入ってくんなっ!)
「⋯⋯⋯⋯ッ!」
声を耐えるかわりに背筋が引き攣った。後ろの穴へ、ついに数本の触手が身を滑り込ませたのだ。一本一本は小指よりも細かったが、束ねて肉の襞を抉られると不快感に肌が粟立った。いや、不快なだけではない。わざと引っかかるように束が引き抜かれるたび、穴のフチが無理矢理こじ開けられるたびに、ゾワゾワと腰へなにかが走った。
万が一――これを「イイ」と認識してしまったら、後は坂を転げ落ちるだけだろう。そう確信させられるような、経験したことのない疼きのようなものが、少しずつ腹の奥に溜まってきていた。
(マズイ、マズイ、早くッ⋯⋯早く解いてくれ、畜生っ!)
「⋯⋯アール・ウィリアム・ハルスウェル⋯⋯」
焦りを喉の奥に押し込めて、どうにかザックがその名を口にすると、『それ』はふいに目を見開いた。驚きに満ちたその顔は初めて人間らしい表情を浮かべていて、ザックはようやく『それ』が『彼』と呼べるまでになった気がした。
「アール様。それが、あんたの名前だろ⋯⋯っ。なあ、召集にっ⋯⋯応えてくれ。国の⋯⋯危機なんだ、あんたしかっ、解決できない⋯⋯っくぅう! っふ、ん゛んんっ!」
息が荒れる。細かった触手の群れが一気に抜かれ、ぽっかりと空いたトコロへ今度は数珠状の膨らみを備えた触手が侵入してきた。粘液が染み込んで敏感になった内壁を、こそぐように、押し潰すように、ゴリゴリと引きずって前後してくる。
(あはぁあっ! こ、こんなの無理だってっ! ひっ、引っかかって、あぁそこそれっ!! ダメッ抜くな、入れるなぁ、あ゛ーっ! あぁぁ、本当にっ⋯⋯たまらなっ⋯⋯!!)
湧き起こる快感は尻からだけではない。固く膨らんだ性器はザラついた肉膜によって根元から裏筋まで何度も何度も容赦なく扱かれ、亀頭は舌に似たぬるつく熱い肉厚の襞が覆っては吸い付き、尿道を戯れに撫でてくる。尖り切った乳首はつつかれるだけで腰の奥がずんと痺れるのに、それを刷毛のような繊毛でさわさわと撫でられたかと思うと、いきなり強く絞られ、捏ねられ、そして優しく揉まれてを不規則に繰り返した。
もう我慢できない。だが、話せなくなれば終わりだ。使者としての役目が果たせなくなる。それは国の危機が回避できなくなるということであり――この国に住む弟や妹、母や祖父母を助けられなくなるということだった。
(エディ、ヒュー、ベティ、⋯⋯ッ母さん、祖父さん、祖母さん⋯⋯っ!)
唇を強く噛み締める。舌に血の味が広がった。
絶対に成し遂げなければならない。家族を守りたい、その一心でここまで来たのだ。犯されて終わりなんて御免だ。
すでに周囲の兵士たちはほとんどが我を忘れ、装備を剥かれて無惨にも触手に貪られていた。視界の端の肉塊からは蛙のように開いた足が突き出て、痙攣してはピンと伸び、のたうち、暴れ回り、そしてまたピンと伸びている。玩具のような滑稽さで、それが人間であるということを思うと空恐ろしくなった。
自分もまた、綱渡りをしているのだ。いつあちら側に転んでもおかしくない場所にいる。
必死に触手の主たる彼を睨んだ。彼は手持ち無沙汰に髪を梳いていたが、やがて興味なさげに言う。
「国なんてどうでもいい。勝手に滅びればいい」
「⋯⋯なっ⋯⋯」
ふわ、と大きな欠伸をして、彼はくるりと踵を返した。
長椅子にすら戻らずに屋敷の奥へ行くようだ。肉で覆われた扉がひとりでに開き、主の到着を待ちわびている。そこが閉ざされてしまえば――ザックも兵士たちも終わりだ。
死ぬまで快感を注がれ、精力を吸われるだけの悪趣味なオブジェになる。
息を呑んだ。そして、渾身の力でもって身を乗り出した。天よ割けよ、と言わんばかりの大声で叫ぶ。
「待って⋯⋯待ってくれっ!!! アール殿ッ!! 待って、頼むっ、俺には⋯⋯俺にはあんたが必要なんだッ!!!」
触手の一本が大口を開いたところへ割り入ってきた。黙れ、と言うように大量の粘液が流し込まれてむせかえる。拘束は締めつけを増してもう身動ぎすらも許してくれなくなった。
貞淑に揃えられていた足は無様にも吊り上げられて、開いたままで固定される。それに恐怖する間も与えられずに、数珠状の触手が何本も尻穴を埋め、仕置きとばかりにひっきりなしに前後し始めた。
「ん゛ほぉお゛ぉっ!! お゛ぉっ、お゛ふっ、んごぉおおっ! おごぉおぉぉッ!!」
(ヒィイィィッ!! 嫌だ、駄目ッ、やめ⋯⋯あぁぁあああ゛ッ!! いっ、い゛ぐっ、いぐいぐいぐっ!! イグッ!! いぃ、嫌ッ! 嫌だあ゛ぁぁっ!! い゛ぐゥ゛ぅぅ――ッ!!)
半狂乱になって悶えたが、やがて視界が真っ白に染まる。もう抗えない、あまりにも凶悪で圧倒的な快感に身を委ねるほかなくなってしまう。まとわりつく触手を握りしめ、暴力的な絶頂の予感に身体を引き攣らせたところで――ズボッ、と全てが引き抜かれた。
後ろも、前も、口からも。
息ができる。呼吸が。頭よりも身体が先に歓喜した。唇から吐瀉物のような粘液を吐き散らし、かろうじて空いた気道に空気を送り込もうと肺が痙攣する。
「ぜっ、ぜひっ、オ゛ェッ、ゲェェッ、ぜぇ、ぜえっ、げっほ、うう゛ぇっ⋯⋯!」
びちゃびちゃと、床に黄みがかった汁と未消化の穀物が広がっていく。屋敷に入った当初はその濁り切った空気に息すら躊躇ったものが、まるで砂漠で水を得たような充足感が呼吸のたびに広がっていた。
涙で視界がグズグズに溶けている。なにも身に付けていない白い足と、引きずられた黒髪が見えた。
触手の一本が顎を撫で、それから押し上げてくる。
目の前に彼――アールがいた。
「イケなくて残念だったな?」
人形のような、という表現すら生温い、国随一の職人がその生涯を懸けて磨き上げたといっても過言ではないような、疵ひとつない造形。紅玉ルビーの光沢を持つ澄んだ瞳に、なめらかな曲線を描く小鼻、濡れたように潤む紅色の艶やかな唇。黒くうねる髪が額縁のように白い肌との境を埋めて、彼の顔自体がさながら絵画のようだった。
自分の状況も忘れて見惚れてしまう。絶世の美女とうたわれる歌劇団の花形を見たときですら、ここまで忘我の境地に至ることはなかったのに。
いつまでも見ていたくなるような、見入られるような妖しい色香が、彼の全てから漂っていた。
その眼が、光る。赤く煌いて、脈打つように輝きを増す。
「⋯⋯術が効きづらいのは本当のようだ。わたしの眼にここまで無反応なのは珍しい。こいつらにばかり悦んで、そんなにケツを抉られるのがイイのか?」
彼は神の賛美でも始めそうな声でそう言い、楽しげにまとわりつく触手を撫でた。褒められたと勘違いしたのか、触手たちはぴゅっぴゅっと雫を漏らし、胸元でずるずると蠢いてくる。
先端を吸われてみっともなく腰が浮いた。発散できなかった快感がとぐろを巻いてわだかまっている。あとほんの少し刺激されたら絶頂してしまうだろう際どさで、それ故にやわらかく撫で回されるのが焦れったかった。
「わたしが必要だと言ったな。どう必要なのか言ってみろ」
「⋯⋯っ、俺、には、弟と妹が⋯⋯母さんや祖父さんや祖母さんが、家族がいるんだ。大切な、命を懸けて守るって決めた家族だ。俺は何を失ってもいい! あんたが捧げろっていうんなら⋯⋯身体も、心も、何だってくれてやる! だからっ⋯⋯頼む。あんたの力で、この国を襲う脅威をひとつ残らず⋯⋯消し去ってくれ!」
じっと彼の目を見返した。常人なら竦んでしまう、魔の力を宿した瞳。しかしザックは惑わされなかった。
幼い頃から淫魔の術が効きづらい体質で、だから住んでいる村では頼りにされていた。村に淫魔がやってきてもザックなら簡単に討伐することができたからだ。次第に腕を上げて、不作が続いたのをきっかけに王都まで出て仕送りを始めた。慣れない傭兵稼業には失敗も多かったが、村を出て三年経ち、今では家のみならず村全体の稼ぎ頭になっている。
(弟や妹が、大きくなるまでは。祖父さんや祖母さんが天国へ召されるまでは。俺は何でもやる。やってみせる。それこそが俺が生まれてきた理由なんだ)
決意を込めた眼差しに何を見たのか。アールは静かに目線を下げた。
そこにあるのは丁度ザックの股間部分で、まさかまじまじと見られているわけではないだろうが、今更ながら気恥ずかしくなる。こんな状態で啖呵を切るのは初めてだ。果たしてどれだけアールの耳に届いているのか。彼の凍り付いたような無表情からは何も読み取れなかった。
室内にはいつしか熱気がこもり始めている。兵士たちはすすり泣いたり獣のように吠え立てながら蠕動する触手に呑まれていた。グチョ、ジュプッ、と聞くに堪えないような音が反響して、もうどこから鳴っているのかも曖昧になっている。
「わたしの母は、淫魔に凌辱された後にわたしを産んで発狂した。兄と姉は汚物でも見るような目でわたしを見たし、わたしは十六になるまで地下に閉じ込められていた」
「⋯⋯え」
唐突に、アールが語り出した。淡々とつむがれる言葉は衝撃的で、ザックはぽかんと口を開き黙ってそれに聞き入った。
「地下にいる間、わたしは限界まで弱らされた。祖父と祖母の口利きで雇われた『庭師』がわたしの食事を運び、排泄の世話をしたが、彼が訪れるのは二日に一度だった。わたしは彼に踏まれ、蹴り飛ばされ、満足に身体も洗われず、その頃のわたしの肌はこの髪と見分けがつかなかった」
「⋯⋯⋯⋯」
「十六が転機だったのだ。兄と姉が面白半分に見物に来た。腐ったような臭いを撒き散らすわたしを嘲笑い、奴隷の一人をわたしに突き出して「食べてみろ」と言った。お前は人ではないから、淫魔だから、人間から精気を啜る卑しい怪物だからと。本当に、本当に――とてつもなく美味しかった。あれほどまでに満たされたことはなかった。私は兄と姉に感謝しているんだ。私を育ててくれた家族たちに。⋯⋯来るといい」
あまりにも壮絶な過去に、ザックは何も言えず、ただ目の前の透き通るように白い、少年じみたいとけない容姿の存在を呆然と見つめた。彼が歩みを進めると、ザックを拘束している触手はそのままズルズルと這いずっていく。
開かれた扉の先は長い廊下だった。後ろで扉が閉まるのを感じる。壁に張りついた触手はその瘤が不気味に明滅しており、燭台よりもずっとおぼろげに道を照らしていた。かけられた肖像画は彼の血縁なのか、みな美しく顔立ちが似ていたが、彼の絵はひとつも見当たらなかった。
廊下の最も奥まった部屋に続く扉が開かれる。そこは明るかった。
中には光を放つ巨大な肉の繭と、それに連なるようにして祭壇じみた並びで肉塊が鎮座していた。
「おはよう。新しい生贄が入ったから新鮮な食事が取れるよ、兄さん。ミルクとジュース、どっちもたっぷりとあげる。その後久しぶりにウンチしようか。ああ、でも女の子はいなかったんだ、残念だね。⋯⋯姉さん、男はいっぱいいたよ。あとで好きなだけ咥えさせてあげる。使い古しでズルズルの腐ったイチゴみたいなマンコでも、きっと悦んで使ってくれるよ。良かったね」
「⋯⋯っ!!!」
その肉塊は、人間だった。触手に包まれているだけでなく、その人間たちは姿かたちが完全に崩壊しており、まるで幼児の落書きのような、お伽噺に出てくる醜悪な豚鬼オーガのような、見ただけで吐き気を催す造形に変化している。
『兄さん』と呼ばれた個体は歯が全て抜かれ、耳は削がれ、鼻は潰された後で豚のようにフックで上へと吊り上げられていた。呼吸が満足にできないのか、舌をだらしなく垂らしながらハ、ハ、と死にかけの犬のじみた吐息を漏らしている。餓鬼のように痩せていたが、腹だけは妊婦かと見紛うほど不自然に膨れていた。その下に垂れる陰茎はザックの腕ほどもあろうかというほど腫れ上がり、睾丸も頭大に膨らんで、どちらも根元をギチギチに縛られてどす黒く染まっている。アールの声に反応した触手がパンでも捏ねるように睾丸を揉み潰すと、『兄さん』は喉を反らしてキィイーッという奇声を上げた。
『姉さん』と呼ばれた個体は、限界まで水を詰めたようにパンパンに太っており、美しかったのだろう顔も額や頬や顎の肉でほとんど潰れてわからなかった。身体も膨れているが、乳房と陰部はその比ではない。垂れた乳袋は上半身を覆い隠すほどに肥え果てて、肉割れを起こしながら今にも弾けそうに張りつめていた。胸の先端にはザックの手のひらの倍はありそうな乳頭がボコボコと波打ちながら揺れている。股間も小陰唇と大陰唇が巨大なナメクジのようにでろりと横たわり、クリトリスは小さなペニスのようにヒクヒクと息づき、そして膣からは生々しい肉色の臓器がこぼれ出ていた。ザックは初めて見たので分からなかったがそれは子宮だ。子宮がアールの指示によって触手で体内に押し戻されると『姉さん』は牛のように吠え、その陰部から透明な汁を噴き上げながら力なく跳ねた。
「⋯⋯ぅ、ぶっ」
込み上げたのは吐き気だった。『それ』を人間だと認識してしまったが故に、ザックは本能的な恐怖と嫌悪を抑え込むことができなかった。
胃液が逆流する。口から溢れ出たそれを、触手が皿のように受け止めるのがわかった。まるでザックが吐くことを予測していたようだった。
先ほどの嘔吐でわずかに摂っていた食事も全て出してしまっている。ほとんど胃液しかもどさなかったが、肉皿に残されたそれを眺めたアールは無邪気に笑った。
「ミルクよりジュースより、先にスープだね、兄さん」
触手の皿がゆっくりと形を変える。注ぎ口の付いたソースポットのように。
それを視認した兄は目を見開き、ヒィッヒィイッと甲高い声を漏らして首を振った。
悶える兄の顔を触手が固定する。ポットは兄の目の前で止まり、アールはそれをゆっくりとかき混ぜた。
「足りないね、兄さん。食事が大好きだもんね。牢でもぼくの前でステーキやコンフィを美味しそうに食べてた。安心して。スープの後はミルクとジュース、そしてちゃんとお肉にするよ。好きなだけ、嫌っていうぐらいに、味合わせてあげる」
言いながら、ポットに触手の体液を混ぜていく。皿の底を薄く潤すに過ぎなかった汁が増え、今にも伝い落ちそうなほどなみなみと満ちた。「利尿剤と下剤と精力剤も入れてあるからね」と歌うように囁いて皿を傾ける。強制的に口を開けさせられた兄の喉へと、それが落とし込まれていく。
「⋯⋯ガフッ、ガッ、オゲェッ!! ⋯⋯ゲヘッ、ごふっ、ウゥッ⋯⋯オ゛ヘッ!? オフッ、ウ゛ゥ゛ウオ゛ェエッ!!!」
鼻を埋められて、唯一空いた気道を望まぬ水分に支配され、兄は窒息の苦しみに悶え狂った。顔を真っ赤に染め、冷や汗を垂らし鼻水で顔を汚しながら何度も何度もえずく。そのたびにアールはわずかな休息を与え、また再開した。
続けるほど、赤かった顔が青黒く変わっていく。えずいても吐き戻せなくなり、呼吸は今にも止まってしまいそうなほどか細くなった。
(このままじゃ⋯⋯死っ⋯⋯)
「っあ、アール! 何、して、死ぬぞ!? お前の兄さん、死んじゃ⋯⋯!」
思わず声を上げる。するとアールは素直に手を止めた。兄がピクピクと痙攣し、真っ赤に血走った目から涙を落として掠れた吐息を漏らすのを、どんな感情も宿さない目でじっと見下ろしていた。
そこには愛はもちろん、憎悪もないように見えた。強いて言うなら義務のような、「それをするべき」という思考に憑りつかれてでもいるような目だった。
彼は瞬き、傍らの肉の台座にスープを置いた。
「殺すつもりはない。兄にも姉にも長く生きてもらうつもりだ」
「⋯⋯⋯⋯どうして?」
「なぜそんなことを尋ねるんだ? 家族に生きていてほしいと思うことに理由が必要か?」
アールが振り返ってくる。肉繭の放つ明かりに白々と照らされた彼の顔は恐ろしく美しかった。冷ややかで、作り物のようで、おおよそ人間には見えなかった。
「家族を守るために何でもすると言ったな」
「⋯⋯ああ」
「何でもというのは、当然だが全てが含まれる。こんなふうに、」
アールがひょいと手を踊らせると、触手がスープを掴み、兄の喉へと突き込んだ。
同時に、無数の触手が兄の下腹へまとわりつく。陰茎と睾丸を肉が裂けそうなほど引き伸ばして押し潰し、突き出た腹に容赦なく触腕をめり込ませた。
兄が声なく絶叫する。棒きれのような手足をガクガクと痙攣させて白目を剥いた。しかし激痛ですぐに目覚め、窒息寸前の気道から異物を追い出そうとして鼻のすき間から汁を噴き出し、なおも流し込まれる液体に悲痛な喘鳴を漏らす。陰茎の先端に親指よりも太い触手が入り込むと、噴き出る汁はいっそう増した。周りの触手たちはいっそ紳士的に汁を集め、再び喉へと滴らせている。
「食事と排泄を全て管理されることもそうだし、」
アールは何でもないことのように続けて、手をまた躍らせた。今度は姉の方で触手がのたうち、膨れて崩れた女の肢体を丁寧に抱き留め、その股間部をザックの前に曝す。
弾けた柘榴か、腐り落ちた無花果か。歪な柔肉の盛り上がりはそこがかろうじて陰部だと分かる程度の痕跡しか残さず、しかしそこを刷毛に似た触手がさらりと撫でただけで彼女は涎を垂らして失禁した。ソーセージのようなクリトリスは触手がピンと弾いただけで生き物のように跳ね飛び、おごっ、おほっ、と濁った声で彼女は快楽を訴える。とどめとばかりに膣と尻穴へ小指のような触手が見舞われると、きひぃぃいー、と一声吠えた後に、彼女は舌を垂らして恍惚の表情のまま脱力した。膣からはどろりと子宮が生まれ落ち、尻からは泥のような便が溢れ、大量の愛液と共に床をべっとりと濡らして異臭を漂わせた。
「性感だけが脳を占め、恥も外聞も失ってしまうこともそうだ」
「⋯⋯⋯⋯」
「それでも、わたしの力を求めるか? 家族を救うため、自分の全てを差し出すと誓えるか?」
ザックはアールを見返し、それから彼の兄と姉の成れの果てを見た。これは脅しではないだろう、と思った。アールはやると言えばやる。ザックの身体は見るも無残に改造され、玩具のように弄ばれ、死んだ方がましだとしか思えない苦痛と快楽の中で生かされ続けるのだろう。
弟にも妹にも、母にも祖父にも祖母にも、二度と会えないかもしれない。まともな状態で彼らと再会することはできなくなるのかもしれなかった。
しかし――しかし、それでも。
「ああ、誓う」
長い沈黙の後に、ザックはそう言った。
決めたことだ。かつて父を目の前で亡くしたときに。愛しい家族のためなら自分の身を捧げよう、何を失ってでも守ろうと誓った。どれだけ辛酸を舐めようと、後悔しようと、それで家族が救われるなら耐えられる。ザックは心からそう思っていた。
アールは凪のように動かない瞳でザックをしばらく見ていたが、やがてふうと息をついた。
「今日は疲れたから、発つのは明日だ」
「――、それって!」
「それから、お前には特別な餌になってもらう」
喜びで身体を浮かせたザックの耳に不穏な言葉が飛び込む。吟味するより先に、アールがこちらへと歩いてきた。
ザックの開かされた足の間へ身を割り込ませて来る。
彼が長い髪の合間から股間を扱くと、ほどなくしてその陰茎が勃起した。
「⋯⋯へっ⋯⋯?」
それはどう見ても彼には不釣り合いな、醜悪としか言いようのない長大な性器だった。平均的な性器に比べて長さも太さも三倍はくだらない大きさだ。どす黒い紫がかった亀頭は重たげにせり出し、竿は数えきれないほどの突起を備えてそれらは常に蠢いている。血管は見てわかるほど脈打ち、玉もザックの数倍は大きかった。
さあっとザックが青ざめ、触手に捕えられた足を無力にさざめかせる。
抵抗にすらならない抵抗に初めてかすかな笑みを浮かべて、アールはザックの腹に手を乗せた。
「ん、な、何っ⋯⋯うあ゛ッ! あっ、熱ッ⋯⋯熱いぃッ!!」
焼印でも押されたような強烈な激痛が腹部に走る。肉の焦げる臭いはしないものの、痛みはアールの手が押しつけられるほど強くなった。腰を引いても逃げられず、襲う痛みを絶叫して散らしていると、やがて手が退けられる。
そこには不可思議な紋様が刻まれていた。魔術的なものだというのはわかるが、門外漢のザックには何を意味するのかさっぱり分からない。
「こ、これっ⋯⋯?」
「この程度しか根付かないか。全力でやっているんだがな」
「⋯⋯っ? アール、これ何だよ?」
痛みは引いたが、今度はチリチリと肌を焦がすような焦燥感が――紋様から性器へ、腰へ、全身へと立ち上ってくる。それは引くことなく留まり続け、ジンジンと疼くような性感をもたらした。
(な、なんかヤバそう⋯⋯って、そりゃヤバいことになるのは分かってたけど⋯⋯)
しきりに下腹を見やるザックに対し、アールはうっすらと笑ったままで、その尻に性器を押し当てた。
いきなり入れるには狭すぎる。そう思うのに、周囲の触手がざわざわと這いずってきて尻のフチを広げるのがわかった。同時に中へ熱い粘液がぶちまけられてごちゅごちゅと掻き回される。その単調な刺激だけで、おあずけになっていた身体が反応してじんわりと汗をかいた。
下腹から広がる疼きが痛いほど高まる。尻の穴がひくひくと物欲しげに収縮する。
添えただけで待ちわびたような反応をするそこへ、アールはひどくゆっくりと先端を含ませていった。
「っ、お、お゛ぅっ⋯⋯うぐぅっ⋯⋯ぉっ、お゛ほぉおぉっ⋯⋯!」
狭く窮屈な窄まりを、時間をかけて抉っていく。かと思いきやわざとかり首を引っかけて前後に揺すった。フチがめくれて無理矢理に広げられては窄まるのを、ザックは凶悪な快感に目を見開きながら感じ入る。
「お゛んっ、お゛ぉっ、お゛ぐぅうっ! ほ、ほぉぉお゛⋯⋯っ、お゛ッ⋯⋯!!」
一回、二回、三回、と同じように引っかけられて、ゆっくり押し進められたかと思うとまた引かれた。身体が魚のように跳ねて止まらない。引かれるたびに大小さまざまな突起がゾリゾリと肉襞を刺激し、かえしのように強烈に中を掻き回してくる。
(っな、なにこ、れっ⋯⋯!? ほお゛ぉぉっ!! な、さけない声、がまん、できなっ⋯⋯!!)
「もっとイイところも教えてやる」
アールの囁きに首を振った。これ以上は要らない。もう十分すぎる、こんなのは人が感じていい快楽じゃない。
拒絶は一切容認されず、アールはズブズブと腰を進めた。その途中で彼が無造作に抉ったある一点にザックが反応する。
ひいっ、と悲鳴を上げてのたうち、そこから逃げるようにどうにか腰を浮かそうとした。アールが触手たちに合図すると、強制的に腰が押しつけられる。ザックはがたがたと震えながら首を何度も振った。
「やめ、や、そこはっ⋯⋯なんかおかしっ、アール、待って、やっ⋯⋯あぉぉお゛お゛ッ!!?」
わざと狙い澄まして陰茎の幹でそこをこそぐ。おびただしい数の凹凸にやわらかい性腺を抉られたザックは白目を剥いて跳ね上がった。一旦腰を止めてザックの頬を打ち、彼が目覚めたのを見てから再び腰が進められる。
「いやっ!! いやだ、待って、ほぉん゛ッ!! お、っほ⋯⋯お゛う゛ぅおッ!! やめへ、そこ、こすらなっ⋯⋯あがぁぁア゛アッ!!」
言葉を紡ぐ余裕を与えながらも腰の運びは冷徹だった。どれだけザックが身をよじっても、哀願しても、足先で押しのけようとしても、一かけらの容赦もなく前立腺を捏ね潰していく。やわらかな突起が舐めしゃぶるようにまとわりついたかと思うと、固く弾力のある突起が食い込むようにしてそこを往復する。起こる快感は凄まじく、ザックは泣いてよがり狂い、許して、許して、と何度もすすり泣いた。
「おね、が、っお゛っぐぅぅう!! ゆるしっ、も、あーる⋯⋯ほぉぉお゛ッ!! おん゛っ、お゛ほぉっ、死ぬッ! 死ぬぅっ!! お゛うぉぉお゛んっ!」
真実、ザックにとっては死の危険すら感じる恐怖だった。どんな抵抗も許されず、湧き上がる異常な快感に頭の芯まで浸されながら、その実相手はゆっくりと性器を前後しているだけなのだ。まるで息も乱していない。つまらなさそうにすら見える無表情で、入れて、抜く、という単調な動きを深度を変えて延々と繰り返している。
たったそれだけのことにここまでの快感を覚えているこの状況が恐ろしい。もし強引に奥まで捻じ込まれて、音を立てながら抜き差しされたら、一体どこまでの――。それを想像するだけでスパークするような快感が脊髄に走った。
(こ、われるっ⋯⋯体も心もっ、持たないっ⋯⋯それまでに止めてもらわないと⋯⋯っ!)
「止べでぇっ!! 止べでぐださいっ!! ごめ、なさ、んぉぉお゛っ!! あ゛ーる、止めでっ⋯⋯ん゛ぼぉぉぉッ!! こぁ゛れるっ! あだま死ぬ゛っ!! お゛、っお゛⋯⋯あ゛ぁあアア゛っ!!」
必死になって許しを請うが、アールは意に介したようすがなかった。動きも全く変わらない。性器のおぞましい凹凸にグリグリと、グチュグチュと、腹の奥から浅いところまでを休みなく抉られ続ける。止まらない。ずっと来る。思考が、意識が、蕩けて薄れてしまいそうになる。
(だ、れかっ⋯⋯死ぬっ⋯⋯死ん、じゃ⋯⋯っ!! ⋯⋯父さっ⋯⋯たしゅ、けっ⋯⋯!)
涎と鼻水まみれになって失神する刹那に、アールは動きを止めた。一番良いところで性器を押しとどめ、そのまま進むも退くもせずに獲物の仕上がり具合を眺める。
ザックは真っ赤な顔に玉のような汗を浮かべて、ぜえぜえと息を吐いていた。快感は今や全身を包んでおり、触手がわずかにのたうつだけでも痙攣してしまうほどだ。ほとんど意識を手放していた彼だったが、ゆっくりその目に光が戻ると、現状を確かめるように視線が下腹へと下りた。
同時にぎゅうっと尻が締まり、その刺激で濁った声を漏らして反り返る。身体が跳ねると中が勝手に前後してしまい、前立腺が擦れてまた反応した。
いっこうに落ちつかないザックを見下ろしながら、アールは笑う。
「やめたいか?」
たずねられて一も二もなく頷いた。今すぐに抜いてほしかった。これ以上は無理だと全身のあらゆる器官が訴えていた。しかし続けられた言葉にザックは二の句がつげなくなる。
「止めてもいいが、その時点で国を救うのもやめだ。ついでにお前の家族全員ここへ連れてきて、わたしの兄や姉と同じ目に遭わせる」
「⋯⋯えっ⋯⋯な、え⋯⋯?」
「お前は最後まで正気でいさせる。お前の弟がお前の精液や小便を啜って生き永らえながら二週間に一度の排泄で惨めに絶頂したり、お前の妹がお前のチンポに縋りついて腰を振り立てて失禁しながら狂ったように善がるのを眺めさせる。お前の母は魔獣のチンポを毎日咥え込ませて孕まさせるし、お前の祖父や祖母は手足を切り落として毎日たらふく水と食事を摂らせて排泄物をお互いの食事に混ぜさせる」
「⋯⋯、⋯⋯な、なんで⋯⋯っ」
「なんで?」
真っ青な顔でザックがそう漏らすのに、アールはわざとらしく目を丸めた。
「お前は、わたしをなんだと思っていたんだ?」
アールがその言葉と同時に、腰を一気に押し進める。
尋常でないほど太く長い性器が腹の奥まで押し入ってきた。吐き気が込み上げるほど、腹がうっすらと浮くほどに捻じ込まれた性器は、入るときよりも出ていくときにより凶悪に作用する。すなわち、備えられた突起の数々が容赦なく、何の救いもなく、悦点を断続的に引き潰していく。
「ッお、っぐ――ほぉぉおおッ⋯⋯⋯⋯お゛ぉぉぉお゛ほぉお゛ぉ゛お~~ッ!!!!」
ザックの喉から濁った喘ぎが迸った。陰茎がその竿とカリでもって内部を蹂躙する。その余りの衝撃に耐えきれずにザックは失神した――がすぐに目覚める。時間にして一秒も忘我の彼方にはいなかっただろう。
それは彼の腹に刻まれた淫紋の効果だった。この紋は特定の効果を示すものではなく、紋が刻まれた者を奴隷として使役するためのもので、主人が自由に効果を変質させることができる。
今現在刻まれているのは、許可なく失神しないこと、発狂しないこと。どれもこの紋の効果としては最低限の基礎的なものでしかなく、淫術に長けたアールとしてはやや不満な出来だった。ちなみに射精もできなくなっている。射精しなければ紋が与える焦燥感からは逃れられず、やがては泣いて射精を求めることになるだろうが、それはまだ先の話に思えた。
ぱん、ぱん、ぱん、と軽く三回抽挿が繰り返され、ザックは泡を噴いて痙攣した。性器は痛ましいほど立ち上がり、先走りは後ろまで伝い落ちるほどだったが、精液が溢れる気配はない。アールは今度こそ誰が見てもわかるほどの笑みを湛えた。それは嗜虐的で狡猾な、揺るぎない支配者としての顔だ。
「わたしは、淫魔だ」
「~~お゛っ、ほ⋯⋯っ、お゛ぅっ⋯⋯ん゛ほぉお゛⋯⋯お゛っ⋯⋯!」
「それで、どうする? 止めてもいいし、続けてもいい。好きに選ばせてやる」
快感ではないものに総毛立つ。とんでもないものと契約してしまったのだとようやく理解した。そして、自身の腹を埋める性器の凶悪さと、取れる選択肢のなさに絶望しながら、ザックはぼろぼろと涙をこぼした。
「お⋯⋯」
「ん?」
「おか、して⋯⋯っ、犯して、ください、続けて⋯⋯止めないでくださいっ⋯⋯」
「そうか。今からこのチンポで、」
そう言いながらゆっくりと肉膜を抉っていく。浅いところから奥まで、のろのろと、恐怖と快感を髪の先まで染み渡らせるようにじっくりと。
「ここも、ここも、それから奥も。何度も何度も捏ね潰して、休みなく抉って、お前が助けてと喚こうが泣いて許しを請おうが失神しようが絶望しようが関係なく朝まで責め立てるが、本当にいいんだな?」
アールにそう耳もとで告げられて、がくがくっとザックが痙攣した。まるで絶頂しているような動きだったが、襲い来る地獄のような快感を予感しての反応だとアールにはわかる。
「絶対に逃げられない」
「っ!」
「お前が白目を剥いて生まれてきたことを後悔しても続ける」
「⋯⋯っ」
「お前はイキっぱなしのまま、誰にも助けてもらえずに頭が壊れるまで犯し殺される」
「⋯⋯⋯⋯⋯⋯」
ザックは鼻をすすってぐずぐずと泣き始めた。震えてもいる。絶望と恐怖に満ちた顔で、しかし瞳だけは生きていた。闇の中にわずかな光を見るように、希望を失っていないのがアールにとっては愉快で、同時に腕が鳴る心地にもなる。
「いいんだな?」
最後通牒のつもりでたずねたアールに、ザックは怯えたようにうつむきながらもはっきりと頷いた。
「はい⋯⋯いいっ、です⋯⋯いぃっ⋯⋯んっ、ほぉお゛お゛っ⋯⋯っ!!」
それを聞くと同時に、ズルズルッと性器が手前まで引き抜かれる。アールは抜ける寸前で止まったそれに手を添え、軽く扱いた。
「ゆっくりしてやる。処女だからな」
優しげな言葉とは裏腹に、膨れ上がった怒張は人外のモノらしく頻りに形を変えている。
どこが良いかは熟知した。後はそれに合わせて作り替えるだけで先ほどの数倍の快感がもたらされることはわかっている。知らないのは息を整えようと躍起なザックだけで、無知な彼が肩の力を抜いているのを見ていると、嗜虐心がむくむくと首をもたげてくるのをアールは抑えられなかった。
性器の形が定まる。無数の疣と瘤で彩られたそれがのろのろと腹へ納められると、ザックはぴんと背を反らせ、舌を突き出して甲高く喘いだ。
「お゛、ほっ⋯⋯ぉふっ⋯⋯っく、ぁ、あ゛ぁ⋯⋯あ゛ぁ゛ぁあァ⋯⋯ッ!!?」
声には困惑が混じっている。先ほどよりもはるかに長く、ねっとりと良いところを擦り上げられていた。進み自体は蝸牛のようにノロいのに、腰から脳天まで駆け上がる快感は変わらない、どころか――。
「あ゛っ、へっ、ん゛へっ、⋯⋯ほお゛ぉっ⋯⋯そ、それ゛、なに⋯⋯ほぉぉお゛お゛っ⋯⋯!!」
明らかにおかしかった。ゆっくりなのに、音すら立たないほどなのに、擦られると頭が真っ白になる。良いところがずっと一番気持ちいいやり方で抉られ続けて止まらない。何度も、何度も、何度も。涎が飛び散り、自由にならない手足がひとりでに動いた。おかしい、こわい、これ、もっともっと速くなったら、一体どうなるんだ。
(なんで、なんでっ、⋯⋯あ゛ぁ゛ぁッ!! なんでっ⋯⋯こんなっ、こんなぁ゛⋯⋯あひぃいい゛い゛っ!! ら、め、なにっ⋯⋯尻がおかし、んほぉぉお゛お゛ッ!!)
「お゛が、おがひっ⋯⋯尻、おかひぃい゛っ!! なにっ、おきて、ほぉ゛ッ! ん゛ぎぃッ! ら゛ぇ、ら゛めっ!! いぐっう゛ぅぅ゛う゛!!」
いく、と口走って初めて、自分が絶頂の瀬戸際にいることに気づいた。射精の予感はない、のに、高められた性感が解き放たれる感覚がすぐそこまで来ている。
ヒクヒクヒクッと尻が断続的に収縮した。決まったペースで中を抉っていく質量に腰が、背中が、頭が従順に隷属する。頭を垂れてそのときを待つことしかできない。もう逃げられない。
「い゛ぐっ!! あ゛ァッ、尻でイぐッ!! い、ぐ、いっちゃ、ん゛ほぉ゛っ!! も゛ぉ無理ッ!! いっぎ、い゛ひっ、ひぃっ、ひっぐ⋯⋯ひん゛ぎィぃい゛い゛ッ!!」
(いぐううぅっ!! こ、こんなゆっくり⋯⋯ッあぁぁ゛!!! 気持ちい゛ィのメチャクチャゆっくりされてッ!! 逃げらんな、許して、もらえなっ⋯⋯ああ゛ぁ゛ぁぁくる、ぐる゛、もう来る゛ぅ゛ぅッ!! 死ぬ゛う゛ぅぅう゛ッ!!!)
痙攣が止まらなくなり、尻がギチギチに締まって無慈悲に絶頂する――その瞬間、アールは思いっきりモノを奥へと叩きつけ、性器に渦巻く無数の突起を一斉にさざめかせた。
さながら、高まり果てた性腺に最後の介錯を見舞うように。触手の媚薬と自身の性器で限界まで追い詰めた肉体を、淫獄の断崖へと突き落とすかのように。
「っっっ――、⋯⋯⋯⋯っほ、⋯⋯お゛っ、お゛⋯⋯んっ、お゛、お゛ほッ⋯⋯!!! お゛ぉお゛っ⋯⋯お゛ぐぅ゛、あ゛、あ゛っ、あ゛~~ッ⋯⋯!!! ぃ、ひ⋯⋯ひぎっ⋯⋯んん゛ふぅ、ん゛ほ、おっ、お゛ほぉぉぉ゛お゛お゛おォ⋯⋯⋯⋯~~ッ!!!」
その絶頂の感覚は、今まで味わったことのあるどの絶頂とも違った。今までのが射精と共に恍惚の夢からふつりと覚めてしまうような快感だとするなら、これは底なし沼だ。足を踏み入れたが最後、どれだけ足掻こうが藻掻こうが意味はなく、ズブズブと沈み込み、恐怖に泣きじゃくりながら腰を、胸を、そして頭を沈められ、永遠に浮かび上がれなくなる。本当にお終いなのだと思い知らされるような、いつまでも尾を引く絶頂だった。
いや、尾を引くどころか、焦燥感はますます増している。感度はいっそう上がって、精神を叩き壊すような快感を躊躇なく拾い上げてくる。
(っな、なん、え゛⋯⋯? い、イッた⋯⋯イ゛ったのに⋯⋯ど、して⋯⋯ッ!?)
「お゛へぇえ゛ぇッ!! あ゛ーッ!! あ゛ぁ゛ーッ!!! イグイグイグッ!!! ら゛め゛へぇぇえ゛ェッ!! イグッ!! もうイッだ!! イ゛ッ、だがらッ!! おねが、あ゛ぁあ゛ァぁ~~ッ!!!」
恐ろしいのは、動きが一突きごとに速くなっていることだった。音も立たなかった最初に比べて、ちゅぷ、ちゅぷっ、と抜き差しが聞こえてくる。まるで子どもが水遊びでもしているような無邪気な音だが、それがこの先どこまでひどくなるか。
想像したくなかった。そうなった先に自分の正気が保たれている気がしなかった。
それほどまでに凄まじい絶頂地獄だった。
「あがぁああ゛あ゛ァッ!! いひぃぃ゛、い゛っだ!! イ゛ぎまじだぁッ!! まだイ゛グッ!! ぜ、んぜ、止まらな゛ッ⋯⋯イ゛グの゛止まんな゛い゛がらッ!! なんえ゛ぇッ!! ごんな゛、ごんなの゛っ、おがひっ⋯⋯イぐぅぅゥううッ!!!」
(なんで、なんでなんでッ!! イッてもイッてもっ⋯⋯あへぇぇ゛え゛っ!! らめ゛死ぬ゛っ!! 尻こわれ、ん゛ほぉおお゛オ゛ッ!! イッ、グッ!! イグッ!! あ゛ぁア゛あ゛あぁァ゛ッ!!!)
引きずり出されるたび、頭の大事なところを削り去られて、代わりに快楽という名の劇薬を直に流し込まれている。絶頂感、というのが思い出せなくなるほどに延々と浸らされていた。もう自分が何を言っているのかわからない。いく、なんで、死ぬ、がリフレインしっ放しだ。
動きは止まらない。少しずつ、ひどくなっていく。
ほんとに殺される。
「イぎまずイぎま゛ずィっ、いひぃいイぎまずぅぅう゛う゛ッ!!! いグぅう゛ッ!! んほぉお゛っ!! あ゛ーッ!! あぁあ゛ーっ!! あ゛ん、ぁお゛っ、んぐあァぁあ゛あ゛あ~~~ッ!!!」
泣いても喚いても止まらない。頭壊れてもやめてもらえない。
「あ゛~~~ッ!!! ん゛ほぉ゛~~~ッ!!! も゛ぉ無理゛ッ!! 無理でず無理゛っ、お゛れ゛には無理でずぅぅう゛っ!! があざ、どぉざんッ!! どぉざんん゛っ!!! イグう゛ぅぅッ!!! だず、たひゅげっ!! んほぉおお゛オっ!!! どぉざんおね゛がいぃぃぃ゛ッ!!! だずげでぇぇえ゛ッ⋯⋯~~~んん゛ォお゛お゛ッ!!!」
母や父がここにいるわけがない。わかっていても、喉が勝手に助けを求めた。
ぱちゅ、ぷちゅ、と音が強くなっていた。まだ強く打ち付けられるほどじゃないと、解離した頭のどこかで思う。まだ先がある。その先ではきっと、この思考すら押し潰されて、許容範囲外の快感にイき死ぬ肉ダルマになっている。
性腺が絶え間なく削られていく。ひと擦りごとに絶頂させられる。貫かれて絶頂、引き抜かれて絶頂。戯れにごりごりと前後されれば鼻水を撒き散らして喘ぎ、奥をねっとりと埋められながら肉竿の突起を波打たせられると、もう、頭が溶ける。正常な思考も何もない。生きていると呼んでいいかすらわからない肉塊と肉繭が埋め尽くす邸内で、化物に魂まで壊されそうになっている。
触手に結い留められて、快感にのたうつことも、手足をばたつかせることもできない。かろうじて自由なのは指先だけで、開いたり閉じたりしたところでなにも変わらない。必死に握り締めて気を散らしても息を抜く間もなくイき続けていてしまっては意味がない。紋様が浮かぶ腹は病気みたいに痙攣して性器が奥を突くたびにふっくらと膨れ、そのたびに底知れない悦楽を生み出した。
そうだ、奥。奥を突かれると、駄目になる。腹がカッと熱くなって充足感がさざ波のように押し寄せる。波は引かない、イってもイっても残ったまま、際限なく高められていく。
「おぐぅうう~~~ッ!! おぐっ、や゛め゛へっ、おね゛がっ⋯⋯んほぉぉ゛お゛~~~ッ!! ぐ、ぐりぐり、しな゛っ⋯⋯あがぁあ゛っ!! あ゛っへぇぇええ゛っ!! イイとこゾリゾリ潰すのやめ゛へぇえっ!! 奥とそれ、い゛っしょ、ら、め゛っ⋯⋯ひぃい゛ィ゛ィ――ッ!!」
(も、ら゛、め゛⋯⋯らめ゛っ⋯⋯お、おれがなに言っても、だめ⋯⋯っ。ころ、され⋯⋯気持ちいぃ゛、あたま、壊されっ⋯⋯じぬ゛ぅっ⋯⋯!!)
ザックが奥を突かれるのを嫌がり始めたのをアールは敏感に察知していた。要は感じ切っている証で、淫紋が身体に染み渡り出したということでもある。
淫紋は宿主にセックスの悦びを刻み込む。身体に主の性器を受け入れるのはその最たるもので、奥を貫かれれば貫かれるほど、性器を腹に埋めれば埋めるほど強烈な快感が増していく。淫紋を定着させるためには精液を中に注ぐ必要があり、同じように奴隷もまた中出しされることでこの世における最上の快感をその身に浴びることになった。
それを知っているが故にアールは尋ねる。
「そろそろ出すぞ? 覚悟はいいな?」
しかし、淫紋の実態を露ほども知らぬザックは、ようやく見えた終わりの片鱗にかくかくと首を縦に振った。わざわざ尻を差し出すような動きまでしてみせる。涎と涙で崩れた顔にホッとした表情を浮かべて、射精を今か今かと待ち望んでいるように見えた。
(だ、出すって、しゃせ⋯⋯精液⋯⋯っ? い、淫魔でも、精液⋯⋯出し、終わったら、終わりっ? これ、おわ、終わる⋯⋯っ終わるの、早くッ! 早くぅっ⋯⋯!!)
健気な奴隷にすら見えるザックへ微笑みかけてやりながら、アールは射精のためのスパートに入る。深くまで押し入り、その凹凸でもってありとあらゆる箇所を潰し、捏ね上げ、つんざくような悲鳴を堪能した。淫魔であればいつでも射精できるのだが、半淫魔のアールはある程度の興奮が必要だ。
アールは挿入に興奮することはない。相手の恐怖や疲労や快楽に歪んだ表情、それを与え、屈従を強いているのが自分だという支配欲。逃れようとする相手を捕え、かすかな希望に縋るのを丹念に丹念に押し潰して突き崩すその瞬間にようやく興奮できた。
だから今は、射精の瞬間に訪れるだろうザックの醜態を想像して、どうにか興奮できている。
「ほ、お゛ぉ⋯⋯ッ!! いっ、グ⋯⋯!! 奥、イっ、ぐ⋯⋯ッ!! イグうぅぅ~~ッ!!! んぎぃい゛っ!! おぐぅぅう゛っ!! しょこ、ばっか⋯⋯ッほぉぉ゛⋯⋯ッ!! も、イッで、くら、しゃ⋯⋯あひぃい゛ィ゛っ!! ひぐッ、イぐぅぅ⋯⋯~~~ッ!!」
「出すぞ」
アールがぽつりと気負わずに呟く。ザックが頷く前に「それ」は始まった。
性器の根元がぼこりと膨れる。と同時に、挿入されているザックにもわかるほど明確に脈打ち、一気に全体が張り詰めた。
そして、先端まで精液が上りつめ、遂にぴゅくっと吐き出される。
その白濁した汁が奥の襞に触れた瞬間に、淫紋が効果を発揮した。これまでに味わったどんな快感よりも強く、長く、それだけで記憶の全てが塗り替わるような圧倒的極悦。それが何のストッパーもリミッターもなく、ザックの脳髄へと秒速で叩き込まれていく。
「っほ、⋯⋯へっ」
呆けたような声が漏れたのを皮切りに、指先から背骨へ向かってどくんと絶頂が駆け抜けた。
訪れた電気信号は尻を、性器を、胸を、身体の全てを一切の区別なく絶頂させる。身体中が性器以上の絶頂感を同時に脳へと送り込む。処理し切れずにショートした脳が、断頭台に上がる階段のように底無しの充足感と恍惚を刻一刻と伝えてくる。しかしザックは失神も発狂もできない。どれほど強烈で、凶悪で、耐え難い快感であろうとも、それを唯々諾々と受け入れることしかできなかった。
「――っっっお゛⋯⋯⋯⋯お゛、ぉ゛⋯⋯ッ⋯⋯ん、ほ⋯⋯っ⋯⋯、⋯⋯⋯⋯⋯⋯お゛ぉっ、おぉオ゛ッ⋯⋯っお、ぐ⋯⋯っほ⋯⋯ん゛ぐぉ、⋯⋯ん゛ぉぉほお゛ッッ⋯⋯ほぉお゛お゛ォおぉォ゛オ゛⋯⋯ッッッ!!!!」
呆然としていた顔が、余りの絶頂感に白目を剥き、失神しかかって戻り、また白目を剥く。壊れた玩具のような繰り返しが数度続き、遂に背筋が限界まで引き伸ばされた。
これ以上は筋肉の方が持たない。そう判断したアールが筋弛緩の薬を打つまで、その悲壮なまでの硬直は続いたが、脱力した後は刺激に緊張すらできない身体が残った。
最初はゆっくりしてやろうと思ってほんの少量しか射精していないのにこれだ。この後もダラダラと射精が続くと教えてやったら、どれぐらい絶望するだろう。その想像に興奮したアールは、長くやれそうだと笑った。
面白い玩具を手に入れたと思った。
「ほっお゛⋯⋯お゛ふぅぉぉお゛っ⋯⋯!!! お゛、っひ、ひぐっ⋯⋯お゛んっ、お゛っ、お゛ぉっ、お゛ほっ⋯⋯お゛⋯⋯――ッ!!! オ゛ぉ⋯⋯ッ!!!」
あの程度の精液の快感を処理するのに数分がかりの肢体を見下ろす。何度も何度も白目を剥いては戻り、涎まみれの口の端からプクプクと泡が生まれている。
立ち上がった性器からはしょろしょろと小便が溢れ、尻は壊れたかと思うほどの締めつけと弛緩を絶え間なく繰り返していた。もう電気信号を正しく処理することができていないのだろうが、癖が付いたら何もなくても一人で絶頂しそうだ。
そう考えているうちに、ザックはようやく地獄の絶頂の頂きから降りてきた。降り切ることはできず、んへ、ほへ、と軽くイき続けながら、犬のように浅く息を吐き、恐怖で顔を引き攣らせている。
よっぽどヨかったのだろう。その極楽が、朝まで続くのだ。楽しませてやらなくては。
そう思ったアールはザックの赤毛をかき上げた。やわらかな毛はぐしょぐしょに湿っていたが、ザックの目にかすかな光を灯らせるには丁度よかった。
「あ゛、ぅ⋯⋯っ」
「初めての中出しはどうだった? ん?」
「ひ、っひ⋯⋯ひぃ゛っ⋯⋯いひ、い゛ぅっ⋯⋯ひぃぃっ⋯⋯!!」
ガタガタと震えて首を横に振る。アールは笑みを深めた。
「そうか。ではヨくなるまで何度でも味合わせてやる」
「いっ⋯⋯いや゛だぁああ゛あ゛ぁっ!!! いやいやい゛や゛っ!!! もうやだ、もうやだぁあ゛あ゛っ!!! あんなの無理っ、死ぬ、死ぬ、ほんとに死ぬっ、おねが、死んじゃ、無理、ゆるし、もう無理、無理っ、無理ぃ⋯⋯ッ!!」
「ならばこの国は滅び、お前の家族は全員処刑だな」
「い゛や゛でずぅぅう゛っっ!! もう、帰じて、帰りまずっ、できまぜ、ごんな、お願っ何でもじまずがらっ!! 見逃して、くださっ⋯⋯家族になんもじないでッ!! ごべんなざい、ごべんなざ、ごめ、⋯⋯ゆるじで、もうできまぜんんんっ⋯⋯⋯⋯!!」
「お前の家族はどこにいる? 言え」
壁にかけてある地図をアールが指すと、ザックは狂乱して暴れた。骨が折れそうなほど力を込めてもがくので、四肢にも筋弛緩の薬を打たれてしまい、退路を完全に断たれたザックが泣きじゃくりながら頭を垂れる。許して、家族だけは、何でもする、と言いつのる彼に対し、アールは黙ったまま腕を組んで聞いていた。
五分もすれば室内にはしゃくり上げる声だけが残る。そうなってようやくアールは口を開いた。
「それで、家族はどこだ?」
「⋯⋯っひ⋯⋯ひっく⋯⋯ひぐっ⋯⋯」
「このままお前に射精し続けてやれば強制的に吐く羽目になるだろうがな。そうなれば彼らは、今言うよりももっとおぞましい目に遭うだろう。肘と膝より先が付いたら絶頂するようにして四つん這いで元の村を散歩するか? 家族丸ごと壁に縛りつけて、好きに犯せと書いて王都のスラムに飾るか?」
「⋯⋯こ、殺してっ⋯⋯も、殺して、くださっ⋯⋯」
「最後だ。家族はどこだ?」
ザックはすすり泣いたが、決して口を割ろうとしなかった。地図は視界にすら入れず、ひいひいと泣きながらうつむくばかりだ。
もっとも、アールにはすでに見当がついていた。ザックの剣の装飾は独特で、ほんの僅かに語尾に残る訛りや鮮やかな赤毛、筋肉の付き方から見ても、王都から馬で数日の山村か、その周囲の出身だろう。わざわざ口を割らせなくともその辺りで名を呼べば釣れるだろうことは予想できた。
ましてや魔術に耐性がある人間なら、王都で軽く探れば出身などすぐわかりそうなものだ。
だのに必死になって隠そうとするのがアールには面白く、ついしつこく虐めてしまう。それが自分のサガだという自覚はありつつも、兄さんや姉さんに食事をあげなくちゃいけないのに、とアールはため息をついた。
暗い気分を振り払うように、ザックを触手ごと移動させる。地図の目の前まで来させて、必ず視界に入るよう顔の向きを固定した。
後ろから性器を押し込めてやり、柔らかくほぐれた最奥をずぐっと貫くと、発狂したように泣き叫んで四肢をくねらせる。
「もう尋ねないが、言いたくなったらいつでも言うといい」
「っいや、ぃやっ、やめてっ、ゃ、許してっ⋯⋯ゆるしてゆるしてっ⋯⋯!」
「言っておくが、さっき出したのは爪ほどもないぞ。次は小指の先ぐらいは食わせてやる。さて、どれぐらい善がるだろうな?」
「ゆるじでっ、おねがっ、だずげ、もう無理、むっ⋯⋯――あ゛ッ!!! あ゛、っぎ、⋯⋯あがっ⋯⋯ん、へぇっ⋯⋯へ、ひぎっ⋯⋯ひんぎぃィいい゛イ゛っ~~~!!!!」
それから、アールは延々とザックで遊んだ。
精液をほんの少し垂らしてやれば何度も白目を剥いて痙攣するような身体だ。加えて、その手足も背中すらも、もうわずかな力さえ込めることはできない。
垂らして、絶叫。許してと泣くようになればまた垂らす。喉を枯らしながら叫ぶ。ぐったりと項垂れる。また垂らす。小便を漏らして狂ったような笑みを浮かべる。また垂らす。跳ね回った後に殺してくれと金切り声で吠え立てる。また垂らす――。
何十回目だったか、掠れ切った喉でザックは言った。
「い、ぃますっ⋯⋯か、かぞ⋯⋯言ぃまずぅ⋯⋯っ」
ようやく音を上げた人間に、アールのほうが半ば感心していた。出し始めた精液はすでに半分を越えている。これほどまでに耐え続けたのならいっそ偉業だろう。
ザックは全身を赤く染め、汗と粘液にまみれて触手の寝台に横たわっていた。虚ろな目に粘膜が爛れた鼻、しまえなくなった舌。脱力した手足は動かず、胸と腹だけは頻りに上下するものの、その刺激でイってでもいるのか常に尻がぴくぴくと痙攣していた。
拷問のような強制絶頂を何時間も続けられた身体だ。少し持ち上げてやるだけで「ん、ほぉ゛っ⋯⋯」という間抜けな声と共にナカイキしていた。
彼の身体を触手の力を借りて抱き抱える。壁にぴったりとくっつき「どこだ」とアールが尋ねると、ザックの目が泳いだ。
王都周辺をぐるぐると巡る。何度か想定通りの地域で止まるが、また泳ぐ。次第に止まる時間が長くなり、代わりに息が荒くなる。そうしているうちにぐずぐずと泣き始める。ついに俯いてしまったザックに、アールは首を傾げた。
「言わないのか」
「⋯⋯っ⋯⋯で、き、ませ⋯⋯かぞっ⋯⋯おれのっ⋯⋯う゛ぅぅっ⋯⋯」
べそをかく赤毛をぐいと上向かせた。そのまま触手で地図のあちこちを指していく。
「ここか?」
「⋯⋯」
「ここは?」
「⋯⋯」
「では⋯⋯ここは?」
「っ」
見当違いの方を指した後にそこを示すと、ザックが息を呑んだ。それでわかった。
アールが「わかった」と呟くと、ザックは真っ青になり、赤子のようなか弱い力でその身体を引き留めようとする。震えながらアールの胸に額を擦りつけて言いつのった。
「お願いしますっ、おねが、おねがいっ⋯⋯なんでもします、セックスも、奉仕も、何されてもいい、一生あんたの玩具でいい、言うこと聞く、あんたの奴隷になる、だからお願い、お願いしますっ⋯⋯!!」
「お前はもうわたしの奴隷だ」
「良い奴隷になるからっ!! あんたが持っててよかったって思うような、良い奴隷に⋯⋯なるからっ⋯⋯お願いです⋯⋯ご主人様ッ!! お願いぃっ⋯⋯!!」
ザックが泣いて縋りつく。それを見たアールは不思議と目の奥が疼くのを感じた。
蘇るのは遠い昔の、封印していた記憶だ。まるで絵を見ているように映像のひとつひとつは動かず、褪せていて、音もまばらに響くのみ。
その時代の記憶は全てが檻越しで、檻の中が全てだった。
『お願いします⋯⋯良い子でいるから、淫魔なんかにならないから、外に出して。ご飯もお水もねだらない、ちゃんと戻ってくるから、ほんの少しでいいから出して。ねえ、お願い、兄さん、姉さん⋯⋯』
檻から伸ばした手は蹴り飛ばされて歪に曲がった。激痛に悶えるアールを尻目に、蹴った兄はチキンを手づかみで食べていて、その野蛮さに姉は美しい顔をしかめていた。
『バァカ。オマエみたいなのとの口約束なんて誰が信じるかっての。オマエが生きてるのは、母様が産んだから、ってそれだけのことだ。外に出たけりゃさっさと死んで、来世で楽しめよ』
『いやあね。一丁前に喋るようになって。庭師が教えてるのかしら。駄目よ、淫魔に知恵なんかつけさせちゃ。食事と排泄だけ覚えれば十分でしょ?』
『そうそう。淫魔だからな。セックスなんてもってのほか。キモチイイって感覚は一生教えない。もし勃起するようになったらとっとと千切るか⋯⋯ああ、姉さんが遊べば? それでもいいよね』
『あら、いいわね。色々あるのよ、針とか、鞭とか、腫れ上がる毒とか、勃起できなくなる枷とか⋯⋯』
『もういいよ、好きにして。俺はコイツがここから出なきゃ、それでいいんだから⋯⋯』
「⋯⋯⋯⋯良い、子に⋯⋯」
アールがぽつりと言う。それが過去の体験を想起しての呟きだとは気づかず、反応を得たと勘違いしたザックはこくこくと頷いた。
「そ、そうっ⋯⋯良い、良い奴隷になるよ⋯⋯お、俺、力は強いし、買い出しとか、庭の整備とか、掃除とかっ⋯⋯なんでも、なんでもするから⋯⋯」
アールがザックを見る。その瞳は焦点を結んでおらず、どこか遠いところを見ているような眼差しだった。
見る人を不安にさせるような、頼りない視線。ザックはそっと身を起こし、力の入らない身体でアールにもたれかかった。
その瞬間にぎくりとアールの薄い背が強張る。おぞましいものを見るような目がザックへ向けられ、そしてすぐに感情を失くした。何も言わないアールに痺れを切らしたように、ザックが口を開く。
「あの⋯⋯さ。あんたも酷い目に遭ってきたんだよな。傷ついてきたんだろ? あんたの身体は小さくて、実家のガキどもより細っこくて⋯⋯だ、だからさ。俺、奴隷だけど⋯⋯あんたの支えになるよ。それじゃ駄目かな」
「⋯⋯そう言えば、家族は見逃してもらえると?」
「⋯⋯⋯⋯。家族は⋯⋯関係ないよ。あんたの支えになりたいって思ったのは、言った通り、あんたがチビだからだよ。⋯⋯そりゃ、俺の家族に何もしないでいてもらえるなら、いいけど」
ザックが言いにくそうにそう言うと、アールはぱちりと瞬き、そっと窓を見た。
黴と蔦の向こうには、新月が明けてようやく満ち始めた月が浮かんでいる。
同じ月が、王都にも出ているだろう。そう思って、アールは自分が外の世界へ出向くのに乗り気なことに気づいた。十六になり、兄や姉、屋敷の人間をひとり残らず捕えて、外から来る人間を餌にするようになっても、自分から外に出たいとは終ぞ思わなかったのに。
おかしくて笑いそうになった。家族から疎まれ、世間から隠されたこの身に『国を救え』などとは笑い話もいいところだ。しかし転機でもある。このままここで肉塊となった家族と共に過ごすよりも、外の世界に息づく全てに復讐してから、人の失せた世界を家族と散策したほうが楽しそうだった。
そう。このときアールは、世界を救おうなどとはまるで考えていなかった。
むしろ真逆だ。
自分を産み落とし、育てたこの世界が憎い。自分の手でこの世に終止符が打てるなら、それはなんと喜ばしいことだろう。
そんな毒々しい展望でもって、彼は満ちゆく空を眺めていたのだった。
「⋯⋯支えになる云々はともかく、王都には向かうつもりだ」
「えっ⋯⋯ほ、本当に来てくれるのか?」
「わたしは人とは違う。嘘はつかない」
言いながら、ザックの背を地図に押しつけ、再び股を開かせる。ごちゅ、と奥を亀頭が埋めると、ザックは甘えた子犬のような声を張り上げて痙攣した。
まだ射精はせず、奥をゆっくりと捏ねながら声をかける。
「お前が良い奴隷であるあいだは、お前の家族には手を出さない」
「は、へっ⋯⋯はぅ、っへ、ほ、ほんと、⋯⋯っんんっ!!」
「だが、もしお前がわたしの機嫌を損ねたり、言いつけを守らなかったときは⋯⋯」
言い切らずにどぷりと射精する。加減したつもりが思ったより大量に出てしまい、ザックが声もなくぐるんっと白目を剥いた。
すぐに戻る。息を呑み、また白目を剥く。戻って舌を垂らす。白目を剥く。また戻る。
「ん゛ッ⋯⋯へぇ⋯⋯っ!!! っほ、⋯⋯お゛ぅっ⋯⋯~~~~ッ!!! っん゛お゛、⋯⋯んぐぉ゛⋯⋯ィ、ひっ⋯⋯ほぉォ゛⋯⋯ッ!!!」
「今のお前が感じているよりも強い快感と、痛みを、延々と与えてやる。お前の目の前でな」
アールの言葉が聞こえているかどうかすら分からない耽溺っぷりだった。パンパンと数度腰を打ち付けると、また情けない声を上げてわずかに小便を漏らす。
「んっほぉお゛ォ゛オ゛ッ!!! ほぉオ゛ッ、お゛ン゛っ、お゛う゛ゥ⋯⋯おへェぇえ゛え゛えッ!!! はへ、へぇっ、っへ、へう゛ぅゥう゛~~~っ!!! きひぃィイ゛い゛っ⋯⋯んぎぃい゛い゛~~~ッ!!!」
嬌声と呼んでいいのか不明瞭な、濁って壊れた喘ぎ声。たった一晩で完全に開拓された尻穴は、やわらかく広がってはアールの極太の性器を貪欲に咥え込んだ。
どれだけ絶頂を重ねても射精することはない。硬く膨れたザックの陰茎は哀れなほど蜜を垂らして、触手で扱いてやると拷問でも受けているように泣き叫んだ。乳首はまだ未開発だが、いずれ好きになるだろう。
奥で動きを止めると、予感ですでに痙攣し始め、絶望の涙をはらはらと流すザックが、アールには好ましかった。
「――ッ、⋯⋯っぃ、ヒッ、ひぃっ、ひんぎっ、っへ、へぇっ⋯⋯んっぐ、ん゛ぎっ、あ゛ッ、あ゛オ゛ッ⋯⋯お゛んオ゛ほォ゛ぉおっ⋯⋯ほぉ゛っ、ォぅお゛ぉオ゛~~~ッ!!! お゛ぉ――ッ!! お゛う゛ッ、お、ごっ⋯⋯っほ、へっ、ほうぅゥウ゛う゛う゛~~~っ⋯⋯!!!」
力の入らない手足をだらんと垂らし、尻だけを必死に締め上げながら、ザックは何度も何度も果てた。身体を襲う快感はもう脳にその居場所を構えてしまったかのようで、規則的に断続的に絶頂のパルスを見舞ってくる。喉が枯れて痛み、肺に空気を取り込むことが苦しくすらあるのに、達するたびに喘ぎと共に息を吐き出してしまい、酸素を求めて無様に胸を上下させた。
(くる、し⋯⋯き、もち⋯⋯ぃぐっ⋯⋯いっ⋯⋯あっ⋯⋯あへっ、⋯⋯はへぇっ⋯⋯)
朦朧とする意識の中で、腹に刻まれた紋様が精液を注がれるたびに妖しく光った。じんじんとした疼きは堪えがたく強まっている。一体何をどうすればそれから解放されるのかもわからず、ザックは一度の失神も許されないまま、明け方までの長い――長い時間を、凌辱と絶頂に苛まれながら過ごした。