淫魔の王
本編
恍惚の悪夢と衆人環視の尿道調教 - 1
傾向:連続絶頂/濁点喘ぎ/触手
規則的に続いていた車輪の音と馬車の揺れが止まる。
辺りには鮮やかな煉瓦造りの町屋敷が立ち並んでいた。馬車が停まったのはそのうちでも一等大きな、庭と使用人の住まいを備えた屋敷の前だ。
御者を務めていた獣人の少年が、ふさふさした耳と尻尾を盛んに動かしながら振り向いてくる。
「ご主人様、ザックさん! 着きましたよ」
「ああ⋯⋯その、ありがとう、ポイ⋯⋯」
「お礼なんていりませんって! お二人を無事に王都へお連れして、その上お屋敷にまでご案内できて⋯⋯僕は本当に光栄です。このまま死んだってかまいませんよ!」
ポイはつぶらな琥珀色の眼をいっぱいに見開き、鋭い牙を見せて笑った。いやに熱っぽい語り口だ。産毛に覆われた頬も上気している。その瞳はよく見るとフチが謎の赤みを帯びていた。
車内の赤毛の青年――ザックはそんな彼を横目に、どこか歯切れが悪い口調で礼を述べる。
馬車の奥でクッションに身を預けている存在が愉快そうに呟いた。
「大仰な奴だ」
『それ』はまるで絵画から抜け出してきたかのように艶やかで、男とも女ともつかない未成熟な容姿をしていた。
いまだ光を知らぬ真珠のような、血管まで透けそうに白い肌。華奢な体躯を覆い隠してなお伸びる黒い巻き毛。そして見る者を怯えさせる真紅の、人外しか持ち得ぬ魔の眼。
動かなければ精巧な人形にしか見えない彼が、外見そのままの淑やかな存在ではないことをザックは身に染みて知っていた。
「なあ、アール。⋯⋯ポイのアレはいつ治るんだ?」
揺れなくなった床を確かめるようにそろそろと動きながら、ザックは横たわったままの存在へと話しかける。アール、と呼ばれた彼は賛美歌でも歌いそうなボーイソプラノを響かせてうっそりと笑った。
「治す必要がない。あれが困っているように見えるか?」
「だってあんたはポイの主人じゃないだろ。いつまでも勘違いさせたままじゃ、あいつだって⋯⋯」
知り合いでもない獣人を気にかけるザックに、アールはゆっくりと紅の目を瞬かせた。
ザックたちが王の遣いとしてアールの屋敷を訪れたのは数日前のことだ。兵士たちを乗せた馬車の御者を務めていたのがポイだった。しかし派遣された全員がアールの手にかかり、発つときにはザック以外誰一人として会話すらできない状態で、結局王都へと帰還したのはこの三人だけだった。
アールは淫魔と人の混血だ。強大な力を秘めており、王が国を救うために求めたのがそれだった。事情を知らぬポイが何の疑いもなく命令を聞いているのも、アールがその魔眼で彼を洗脳しているからだ。
そう――ポイの無垢な瞳を染める赤い色彩は、魔術によって心を支配されている証にほかならなかった。
(⋯⋯ずっと言いなりにするのは駄目だ。ポイだってしたいことがあるだろう。どこかで覚ましてやらなくちゃ)
そう思っての提言だったが、アールはしばし考えるように細い顎へ手を当てた。
「獣人はいろいろと便利だ。体力があるし身体も大きく育ちやすい。理解力に乏しい分単純なモノで喜ぶ。それにチンポもでかいぞ。お前も嬉しいだろう」
「な」
いきなり下世話な話を振られたザックがぼっと頬を赤らめる。
「なに言ってッ⋯⋯あ、あんた、言っとくけど俺はなあっ!」
「失礼、賢者様方。使用人一同待機しております。まずはお目通りを願います」
言いつのろうとしたザックだったが、外から聞こえてきた平坦な声に押し黙った。
ちらりと出窓から窺うと、揃いの服を身につけた者たちが姿勢を正してずらりと並んでいる。中央に立つのは褐色の肌をした背が高い女で、胸がなくスラックスを身に付けているためか男のようにも見えた。
行かなくては、と思う一方で、外から目を逸らしたザックは唇を噛む。
「マズイぞ、アール。そいつらが見られたらヤバい」
視線の先にはアールの身体の下に敷かれたクッション――に見える、無数に蠢く禍々しい触手があった。
それはアールの力の一端である魔生物の一種だ。太いものは人間を難なく拘束するほど力が強く、さまざまな薬液を調合して分泌することができる。本体は屋敷の奥にあった肉繭らしい。これはその一部を分離させたものだった。
いびつに隆起した肉の盛り上がりは植物にも海洋生物にも似て非なる造形を持ち、ぐねぐねと身をさざめかせるさまは生理的な嫌悪感を呼び起こす。魔物に慣れている傭兵のザックでさえ眉をひそめてしまう怪物だ。街から出たこともないような人間が見て正気でいられるとは思えなかった。
アールは身を起こし、自分の尻に敷いた怪物を見るともなく見てからふいにザックを指さす。
それを合図に、触手たちが一斉にその幹を伸ばした。
「――ッ!?」
避ける間もなくまとわりつかれる。服の中へ入り込み、肌を覆うように広がったかと思うと、不規則にのたうちながらぴったりと密着してきた。太い触手は居場所を求めるように這い回って後ろの襞を探り当てる。慣らしてもいないそこへ粘つく体液が吹きかけられるのを感じてぞわりとした。
「お前の身体にしまえばいい」
「しまうって⋯⋯っうあ゛! やめっ、ぐぅうっ!」
くぷくぷとつつかれた後にやすやすと押し入られる。先端こそ細いが、徐々に太くなっていく竿に容赦なく未熟な腹を割り開かれていく。片手では足りない数が先を競って体内へ雪崩れ込んでくる不快感にザックは悲鳴を上げて悶えた。
強烈な圧迫感と共に、悦びを教え込まれた性腺を抉られて蕩けそうな恍惚が襲ってくる。
(っふ、あ⋯⋯んんん゛っ! は、やめっ⋯⋯あっ、が、も、入らなッ⋯⋯!)
掴んで引き留めようとしても指の先をすり抜けていく。触手の侵攻は最奥まで達し、そこから更に見知の領域へ進んだ。へそまで上った塊は狭い腸壁を埋め尽くしてなお止まらない。押し上げられた胃から喉へと酸っぱい消化液が逆流してきた。
これ以上は入らない。体内から破裂する。恐ろしい想像に脂汗が噴き出した。肉体という袋が異物を目いっぱい咥え込んで膨れているのがわかる。もっと怖いのは、それが痛みと嫌悪だけをもたらすわけではないことだ。
塗り込まれる体液が身体を芯から熱くする。乳首や陰茎、尻の奥から脈打つような快感が広がった。腹がジンジンと疼いて止まらない。漏れた吐息は甘く掠れ、ザックは声もなく口をはくはくと動かし、堪えるように唇を噛んだ。
「んっ、ふぅう゛っ⋯⋯っぎ、⋯⋯は、ひ⋯⋯っ」
立っていられずに膝をついた。触手が蠕動するたびに弱いところが捏ね上げられて尻がひとりでに浮かぶ。無様で淫猥なダンスを披露するザックを尻目に、アールは馬車の後ろから下りて、居並ぶ使用人の前で淡々と言った。
「わたしが主だ。聞いておくべきことは?」
美貌と異様な眼を持つアールにたじろぐことなく、褐色肌の女は一歩進んで告げた。
「わたくしはグウェンと申します。この屋敷のメイド長を務めております」
背を正して完璧な角度で一礼してみせる。彼女は門を開き、屋敷の中へと誘導しようとした。そこへ無慈悲な指示が飛ぶ。
「おい、下りてこい」
「⋯⋯っ!」
声を噛み殺していたザックは目を見開いた。力を入れようとした内腿がガクガクと痙攣する。とても歩けない。こんな状況で外へ出られるわけがないのに。
(い、かなきゃ⋯⋯はぅっ! あ、はぁ⋯⋯動くなっ⋯⋯う゛ぅぅっ! は、らが、ボコボコ波打ってッ⋯⋯気色悪いのにぃっ⋯⋯あ゛ぁあっ!)
内臓を蹂躙されるたびに背を駆け上る異常な快感。生まれたての赤子のようにふらつきながら、四つん這いで外へ向かった。壁に身をもたれさせてどうにか二本の足で立つ。嬌声が漏れそうになる口を自身の手で塞ぎ、使用人たちの冷ややかな目から逃げるようにしてアールの背へ追いすがった。
眼前を行くメイド長がザックに試すような一瞥をくれてから話し始める。
「この屋敷と我々は王命が果たされるまでの間、賢者様の所有物となります。いつでも誰かしらは敷地内におりますので必要なときにお呼びください」
「魔界との門を壊し、淫魔を一匹残らず殺してこの国に平和をもたらせ、とかいうアレか。達成できるかもわからない命令に付き従う羽目になって哀れなことだ」
その言葉にザックは城での出来事を反芻した。
今朝がた王都に到着した一行はまっすぐに城へと向かった。そうするように申し使っていたからだが、真新しい城壁を擁する王城の中は入り組んでいて、見たこともない煌びやかな調度品の数々に市井の人間であるザックは恐縮するばかりだった。アールの従者として王の御前にまで伴ったが、王その人は何重ものベールに包まれた段上から語りかけてきたため、その姿は窺い知れなかった。
先の王が崩御した十数年前から国民の期待を一身に背負ってきた若き賢君だ。もともと病弱でここ五年余りは民の前に姿を見せなかったが、初めて会ったザックは声を聞くかぎり落ち着いた穏やかな男性という印象を受けた。
曰く、毎日のように淫魔の被害が報告されている。本来この世界にいるはずのない存在が増えているのは、魔界とこちらをつなぐ門が綻んできているからだ。
地上の淫魔を殲滅した上で門を壊すこと。それがアールに課された使命だった。
使命が果たされるまで、アールは「賢者」として国賓と同等の扱いを受ける。この屋敷は王のかつての愛妾の住まいとのことだった。
屋敷の中は手入れが行き届いており、水晶細工のシャンデリアが眩しいホールは一度に何十人も踊れそうなほど余裕がある。だが、ザックは腹を蝕む魔物に耐え忍ぶだけで精一杯で、とても周囲へ意識を向けることができなかった。
背を丸めて浅く息を吐いているザックの前でアールが言う。
「寝室は?」
グウェンは問いにすぐさま「こちらへ」と案内した。キングサイズのベッドが鎮座する部屋へ招かれ、背後で扉が閉められる。
アールは柔らかなシーツに身を沈め、赤い眼を獰猛に光らせて言った。
「腹が減った。来い」
「⋯⋯っ⋯⋯」
逆らえない。のろのろと歩みを進めるザックは、自身の下腹がきゅんと甘く痺れるのを感じていた。
アールの前で装備を脱ぎ捨てる。その腹には、薄く光る謎めいた紋様が浮かんでいた。
それは淫紋と呼ばれる、淫魔の餌として飼われている奴隷を示す隷属の証だった。
冷えた指が戯れにそこを撫でると、焦燥感に似たくすぶりがゾワゾワと全身へ広がっていく。後ろの襞が物欲しげにぱくつき、体内に撒かれた粘液がたらりと穴のフチを伝った。
深いところに我が物顔で居座っていた触手が、遊ぶように肉壁を擦り上げて窮屈な窄まりを押し開く。思わず前屈みになったザックの前でアールも服を寛げた。
勃起していないにも関わらず、ザックの膨れた陰茎よりも大きな一物が露わになる。
「ぁ⋯⋯う、⋯⋯っ」
拳のようにせり出した亀頭、無数の突起が生き物のように蠢いては形を変える凶悪な竿。精液の詰まった玉袋は血管が浮き、そこに秘められた子種の量を知らしめるように重たく揺れた。紫がかって黒ずんだ性器はヒトのものとは似ても似つかず、それが与える拷問のような快感を身体で覚えているザックは無意識に唾を飲んだ。
「喉の奥まで咥え込め」
命令は一切の躊躇を許さない。ザックはアールの身体の前で膝を付き、興奮で頬を赤らめながらその巨大なモノを両手で支えた。
あまりにも太い。喉はおろか、口へ入るかどうかもギリギリだ。恐る恐る唇で触れると腹が一気にずくんっと熱持った。
「っふ⋯⋯んむっ、んぅっ⋯⋯は、ぶ⋯⋯っ」
(あ⋯⋯お、いし⋯⋯なんでっ⋯⋯。舐めてるだけなのにっ、気持ち、イィ⋯⋯ッ!)
身体中の細胞が、血液が歓喜して沸き立つようだ。舌が一物を辿るたびに脳の柔いところへ麻薬じみた陶酔が押し寄せる。ザックは初めての奉仕でありながら、夢中になって先端を舐めしゃぶり、太すぎる竿を衝動のままに口腔へと収めていった。
主人への献身が至上の快楽に置き換わる。それは淫紋の効果のひとつだ。男娼でもないザックが喉奥を突かれてえずいても陰茎に吸いつくのをやめられないのは、まさしく薬物に脳を侵されたジャンキーと同じだからだった。
口の中で陰茎が硬くなる。頬いっぱいに性器が膨らんで、敏感な上顎を大小さまざまな突起が何度も前後した。それを感じるだけで耐え難い幸福感と待ちきれないような期待感で尻をきつく締め上げてしまう。
(いやだ⋯⋯チンポ舐めたくないのにっ、~~いぃっ、すき、これっ⋯⋯あぁっ、頭おかしくなるッ! もっと啜りたいッ、欲しい⋯⋯奥に⋯⋯違うぅっ! 俺は、そんなっ⋯⋯変態じゃないッ!)
「ふぅ、ふむ゛っ⋯⋯ちゅぶ、ずる、じゅるるっ⋯⋯んお゛、おう゛ぅうっ⋯⋯」
頭でどれだけ拒絶の言葉を並べようと、ザックの肉体は悦びを示すように赤らみ、性器に埋め尽くされた喉の奥はわずかな凹凸さえ貪欲に啜って目の前の主人へと媚びを売った。
(あぁっ、喉、ごりごりってぇ⋯⋯ひぃいっ! もっと擦って、奥まで、もっとぉ⋯⋯苦しぃ、チンポ嬉しいっ、せーえき、ほし⋯⋯いやだぁあっ! ほしくないぃっ、要らなっ⋯⋯うぅう゛~~っ!)
相反する思考が脳内の天秤をひっきりなしに揺らす。次第に快楽が理性を上回り始めたのには気づいていた。
ザックの瞳にすっかり情欲の炎が点ったことを見て取ったアールが唐突に性器を引き抜く。唾液が糸を引いて伝い、奉仕の対象を失った身体は驚くほどの飢餓感に苛まれた。
(ぁ、あ、あっ、いやだ、ぃやっ、まだ⋯⋯舐めたい、むしゃぶりつきたいっ、もっとっ!)
思わず口を開いて再度咥え込もうとしたザックの頬を打ち、アールは冷たく告げる。
「ベッドに上がって足を開け」
ぶるっと身体が震えた。予期的な快感と恐怖でだ。
アールに穿たれるのは怖い。抜き差しされるだけで絶頂が止まなくなり、イきっ放しのまま際限なく高められていく。その上中出しされるたびに閃光に焼かれるような底なしの極悦を強制的に叩き込まれる。初めて会ったときに夜通し犯されてこの世の地獄を味わったザックは、貫かれる想像だけで身を竦ませるほどになっていた。
「く、口で⋯⋯」
意識せず漏れた呟きに、アールは片眉を吊り上げる。気分を害した反応であることは明白で、ザックが何か続ける前に目の前の主人は鮮血の虹彩を鋭く光らせた。
腹の中の触手が意思を持ってのたうつ。粘つく淫液を噴きこぼしながら狂ったように肉膜を抉り、出口を求めて這いずり回った。
「――ッほお゛ぉっ!! あ゛おっ、お゛ぉほお゛ぉォオ゛おッ⋯⋯んがァあ゛あアっ!!」
狭い体腔が限界まで押し広げられる。排泄物よりもはるかに太い、無数の瘤に彩られた触塊が強かに窄まりを擦り上げながら顔を出し、ぶちゅりと淫猥な音を響かせてまた中へと帰っていく。尋常ではない肛虐に、しかし飢えた肉体は涎を垂らして悦びを訴えた。
(あはぁぁあ゛ッ!! あっ、イグッ、い゛ぐいぐぃ⋯⋯ひぎい゛ぃいいっ!! お゛ほぉっ、おう゛っ、またイっ⋯⋯イ゛んぐぅぅう゛うっ!!)
アールの細い脚に縋りつくように身を預け、襲い来る絶頂感に背を跳ねさせながら白目を剥く。触手は床と体内を行き来するばかりで、どれだけイってもいきんでも一匹たりとも出てこない。泡立つ体液が水音を響かせながら床を汚す。疑似的な排泄を繰り返しながら性腺を掻き潰す悪魔じみた動きに、ザックは絶叫しながら首を振り乱した。
「ごべっ、ごべんなざ、あ゛がぁあァッ! ぜ、ぜっぐずじま⋯⋯チンポじま゛すがらぁッ! ゆ゛るじっ⋯⋯ほぉぉお゛っ!! あ゛~~ッ!! い゛ぐっイぐっいぎま、ぉぐお゛ォお~~ッ!!」
顔を涙と鼻水で汚して無様に許しを請うザックを、いっそ冷酷にアールは蹴倒した。身体を打ち付ける衝撃に身構えることすらできず、ザックは床に這いつくばって絶頂しっ放しの尻を高く持ち上げながらへこへこと揺らす。
「興が削がれた。そのまま屋敷を一周してこい」
「ぞ、そんな゛っ、⋯⋯無理、むりれ゛すっ、む゛りッ⋯⋯」
「早く行け。あのメイドに一部屋残らず案内してもらえ。それまで戻って来るな」
アールは言葉通り、興味が失せたように寝台へと横たわって、絶望の表情を浮かべたザックに目もくれなかった。触手はなおも容赦なく蠢いている。下肢からは絶えずポタポタと汁が滴り、喘ぎ声を我慢することなど出来るはずもない。
あのメイド長の冷たい眼差しが汚物を見るそれに変わるのがありありと想像できて、ザックはしゃがれた声を上げながら寝台へと上体を預け、目を閉じた幼気な主君へ拙い謝罪を繰り返した。
「ごべん、なざいっ、ごめんな゛ざ、っひっく、ごめ⋯⋯お゛ぐぅぅっ! ん゛ほぉっお⋯⋯ぃ、いや、れす、や゛だっ⋯⋯チンポハメでくらざいぃっ! ぉ願いじまずう゛ぅっ!!」
アールは眉間に皺を寄せ、ザックを無視するように寝返りを打つ。本当にそのまま眠ってしまうのではと思う冷たさで、浮かぶ恐ろしい想像を振り払うようにシーツへ額を寄せた。
どうすれば許されるのか分からず、さりとて命令どおりに屋敷を這い回ることもできない。ただグズグズと子どものように泣いて駄々をこねる自分が惨めだった。
触手の乱暴な愛撫は正確さを増して、悦点を執拗に押し上げながら無限の絶頂へと誘ってくる。休みなく与えられる快感が脳を犯し、溶けるように判断力が失われていった。
「だず、げて、ゆるじでっ、あ゛ーる⋯⋯ごしゅじんさまァ⋯⋯ッ! し、したが、い゛まず、言うごと聞ぎまずっ、ひっく、ヒィッ、お゛ぅ、おへっ、ゆ゛るじでえぇえ゛っ!!」
滲み出た唾液がシーツを汚した。ザックが頭を垂れて壊れた玩具のように詫び続けていると、ふいに寝台が軋む。前髪をギリギリと持ち上げられたザックの前で、不機嫌さを隠しもせず、アールは心底うっとおしそうに自身の奴隷を睨んでいた。
「行け」
与えられた指示に反応するのは触手だった。ただザックを嬲るだけだった彼らは、捏ねる方向を一定に揃えてザックを無理矢理に動かそうとする――扉の方へと。
ざあっと血の気が引くのを感じた。ごちゅ、ぶちゅ、と尻から鳴る音はどこか遠い出来事のようで、快感から逃げるように動けば、それはもう部屋から出ていく足の運びになっている。
(ぃ、や゛⋯⋯い゛ゃだ、いやいやイヤ゛ぁっ!! 見られたくないっ、こんな格好、行ぎだくないぃ、イグっ、イ゛がされっ⋯⋯いやだぁああ゛ッ!!)
足を止めたくとも身体が勝手に反応する。絨毯に爪を立て、足を閉じて芋虫じみた姿勢で這いずるが、触手は柔らかく熟れた奥とひりつくように疼く浅い箇所を何度も押し潰してザックを進ませようとする。どれだけ堪えても絶頂のたびに身体が跳ね、一歩、また一歩と扉が近づいてきた。気を失いたい。動けなくしてくれと神に願いそうになる。
「あ゛ーるッ! アー、る゛、アールぅぅっ⋯⋯!! やだ、お願っ、もぉ゛逆らわな゛ひっ、ちゃんとするがら゛、良い奴隷でいるからぁァッ! チンポ舐める、ブチ込んでい゛いからっ、ゃだやだ、イヤ、イ゛ぐっ、いやっ、いぐぅぅう゛っ!!」
扉が目の前にある。ノブをひねれば廊下だ。触手は早く出ろ、歩けと言わんばかりに奥をぐりぐりと責め立てててくる。ザックは戸に手を付き、振り返ることもできずに泣き喚いた。呆けた犬のように舌を突き出し、白目を剥いて許しを願う自分はなんて滑稽だろう。もしこんなザマを家族や死んだ父が見たらどう思うか。そう考えるだけで、ザックは心臓が握り潰されるような心地がした。
突然触手の動きが止まる。かと思うと、示し合わせたように一斉に這い出してきた。
ひどく汚い音が尻から聞こえる。破裂音にも似た断続的な排泄音。腹の奥の奥まで埋まっていた触手が肛門までの長い道をズルズルズルッと一息に抜け、間抜けな金切り声を上げて深く絶頂したのも束の間、ぽっかりと空いた口に張りつめた怒張が押し当てられた。
ひっと息を呑む。拳のように太く長いそれが、ぬるつく襞を巻き込みながら内壁をこそぎ、ザックの全てを支配していく。
「っほお゛ォぉおお゛ッ⋯⋯んん゛ぉお゛、お゛、ほッ、ほう゛ゥっ、お゛お゛ォほぉお゛オ゛~~⋯⋯ッ!!」
せり出した雁首が、竿を埋め尽くすいびつな突起が、ひとかけらの容赦もなく開発された肉の筒をすり潰してくる。
淫紋が主の持ち物を受け入れる幸福に随喜するように拍動した。あまりにも壮絶な快感にザックは仰け反り、尻をヒクヒクと痙攣させて硬直する。まるで味わうように、吸いつくように陰茎へと媚びを売る菊門は、そこだけ見れば色狂いの持ち物のように淫猥で、肉欲に正直だった。
「はへえぇぇえ゛っ⋯⋯ほぅお゛ォぉおっ!! あ、っへ、あ゛へぇっ、へひっ、んひィい゛⋯⋯がぁあ゛ァアッ! あ゛アぉお゛ぉ⋯⋯ッ!!」
「やかましい」
恍惚に蕩けていたザックの顔を平手打ちし、アールは舌打ちをした。聞き分けのない犬に呆れるような冷徹な眼差しは、しかし瞬きの後にその色を深め、吐き出された触手の群れにザックの身体を持ち上げさせる。
扉の前で股を開けっ広げに曝して、ザックは最奥を突き立てられる充足感と、敏感な内膜を思う存分擦り上げられる絶頂感に鼻水を垂らしながら耽溺した。
「このまま出るか?」
「~~っ⋯⋯きっ、ヒッ⋯⋯くほォお゛っ⋯⋯ほん゛ぉほぉお゛っ⋯⋯!!」
「外へ、街へ出て、お前の家族のところまで行ってやろうか?」
かぞく、という響きにザックの虚ろだった目が光を宿す。身体は快楽に服従しても心だけはまだ生きていた。震える身体に力を込め、ザックはゆるゆると首を横へ振る。涙に溶けた青い目で嗜虐的に笑う美しい主人の顔を振り仰いだ。
「っや、ぁ⋯⋯だ、め、かぞ⋯⋯おれっ⋯⋯だめっ、イヤだぁ⋯⋯っ」
「聞き分けが悪い奴隷の願いを聞く主はいない」
太い竿の粒状の突起でグリグリと前立腺を引き潰される。灼熱に似た絶頂感がひっきりなしに込み上げて、その一瞬は矜持も理性も何もかもが吹き飛んだ。もたらされる性感の極悪さに脳髄を焼かれ、発情した獣のように吠え立てて、脳裏を過ぎる父や母の姿が霞みそうになる。
(と、さ⋯⋯かぁさっ⋯⋯っあ、ア゛、あぁぁ⋯⋯ッ!! アはぁァ゛あ゛ぁッ!!)
「わたしに二度言わせるな」
「っは、へっ、へぇっ⋯⋯ん゛っほ、ぉ、お゛ふっ⋯⋯ほぉオ゛ッ⋯⋯!」
「わかったか?」
問いに訳もわからずコクコクと頷く。頭はすっかり快感一色に染め上げられて、単語さえまともに理解できなかった。しかし、触手がザックを絡めとり、尻を突き出させるような格好に変えると、意図を理解したザックが無意識にがたがたと震え始める。
「出すぞ」
無情な宣告に、ザックの目から大粒の涙が零れ、淫紋が焦がれるように熱を持って疼いた。
(だ、す⋯⋯せいえ、せーえきっ⋯⋯っあ、い、ゃ、やだ、クる、来るっ、『あれ』が⋯⋯っ!)
想像だけで瞳が裏返りそうになる。主人から中出しをもらえたときだけに湧き起こる、どんな快感も陵駕する無限の極悦。ほんの少し垂らされただけで意識が吹き飛び、筋肉が断裂しそうなほど身体が跳ね上がる底なしの絶頂の予感が、淫紋を介して身体中に広がっていく。
怖い。耐えられない。発狂する。泣いても助けは来ない。項垂れたまま待つほかない。
ぱん、ぱんと肌が打ち鳴らされる。嗚咽混じりの喘ぎは悲壮さを増して、ザックは力の入らない手足を無力にばたつかせた。体内を侵略する陰茎の根元がぶくりと膨らむ。逃げようと浮き上がる腰を触手で抑えつけられて、身動ぎさえ許されないまま最奥へと押し進められていく。
(あ゛ッ! ア゛っ、あっ、あ゛ァッ、くる゛っ、くる、い゛やっ、死ぬ゛、死ぬじぬしっ⋯⋯ひぬ゛ぅぅう゛うっ!!)
ごちゅりと奥が暴かれる。隙間なく密着した先端から、地獄の始まりとなる一滴がぴゅくりと噴き出す。
主君の射精を受けた淫紋が妖しく光った。全身を同時に絶頂させる拷問じみた電気信号が一斉に広がり、眠っていた性感がひとつ残らず呼び起こされていく。
「――ッお゛、っお゛、おほっ!! っほ、ぉ⋯⋯っが⋯⋯ん゛っ、が⋯⋯~~ぁッ⋯⋯ァア゛ッ⋯⋯っひぎ、ぃ、ぃ、い゛ッ⋯⋯い゛んぎぃィぃ⋯⋯~~ッ!! い゛っ、ぐ、ぃぎ⋯⋯い゛ひぃィイ゛ぃいっ、あがッァア゛あァあ゛ぁッ!!」
視界が白く明滅する。イっていないところがどこにもない。指が、肌が、性奴の悦びに興奮して硬直し、高まり切った性感を余すところなく伝えてくる。もう処理できない。処刑じみた快楽の渦は脳の手前で差し止められて、溜め込まれた絶頂が粛々と規則的に全身へと下りてくる。イってもイっても底がない。イったそばからまた絶頂する。休む間もなく極められ、人格すら崩壊するような恐怖がひたひたと押し寄せてくる。
「んへ、ぇぇえ゛ッ、ぇッ⋯⋯ほぉぉオ゛ォお゛ぉッ!! お゛っう゛、ぉぐ、ォおん゛ッ! っほ、お゛⋯⋯ッ! ~~っひ、ぐ⋯⋯ひぬ゛っ⋯⋯っヒ、い゛ィぎ、ひぬっ⋯⋯イッ、ぎじぬぅう゛⋯⋯っ!!」
「残念だったな。お前は気を失うことも、狂うこともできない。諦めて受け入れろ」
死すらちらつきそうな快感に襲われているザックへとアールは愉快そうに告げ、壊れたように収縮を繰り返す尻穴へ腰を突き入れた。いまだ淫紋からの極刑の渦中にいる肉体に、前立腺を擦り潰される快感と、円を描くように最奥を捏ねられる絶頂感が合わさって、ザックは泡を噴いて白目を剥く。しかしすぐに戻ってくる。
アールの言葉どおり、彼は決して失神も発狂もできなかった。淫紋によってその身体を縛られているからだ。通常の人間なら一発で廃人確定だろう快感をただ受け入れることを余儀なくされた肉体は、病的な痙攣を繰り返して無様に小便を漏らしながら、主人が満足するまでその欲を美味そうに咥え込み、涎を垂らして悦び続けた。