淫魔の王

本編
恍惚の悪夢と衆人環視の尿道調教 - 3
傾向:連続絶頂/濁点喘ぎ/尿道責め/焦らし責め/触手

 誰もいない夜の路地を鮮やかな赤毛が駆けていく。着の身着のままのその青年――ザックは何かに追われるようにして先を急いでいた。その青い目はほのかに潤み、頬もほんのりと染まっている。彼は勝手知ったる場所のごとく細い道を迷わず曲がり、更に曲がり、そしてあの広場へとやってきた。
 細い月明かりの下に彼の主君――アールがそこにいた。
 触手造りの蠢く長椅子に身を預け、目の前で串刺しにした虫の息の淫魔になにごとか囁いて、空中に浮かんでいた最後の氷の柱を見舞う。薄い黒煙が噴き上がったかと思うと、次の瞬間には全ての氷柱が音を立てて落下した。
 夢の支配者たるあの淫魔はもういない。地上から姿を消したのだ。
 淫魔がそこにいた証のように残された紋章が、宙を漂いながら淡く発光していた。奇怪な角が生えた山羊のような紋章だ。それに刻まれた『男爵』の証たるクラウンが光の粒へと変わり、アールの体内へと吸い込まれていく。
 やがて紋章がかき消えた。呆然と見つめていたザックへ視線を投げて、アールは小首を傾げてみせる。
「寝ていればよかったのに」
「⋯⋯寝てられるか。あのアルプっていう淫魔は⋯⋯死んだのか?」
「いや。純粋な淫魔は死ぬことがない、魔界へ還っただけだ。もっとも爵位を失ったのは痛手だろう。夢魔としてはかなり強い力を持っていたから、恨まれないといいがな」
 そう言って疲れたように息を吐く。温度が下がった空間は吐く息が白く染まるほどで、ザックは両腕をさすり、転がる氷柱を踏まないようにしながらアールへと近づいていった。
 言葉を探すようにしばらく視線をうろつかせていたが、やがてはっきりと口を開く。
「アール、助けてくれてありがとう。あんたがいなかったら⋯⋯正直、危なかった」
「礼はいい。お前がいい囮だったおかげで、探知も攻撃も拍子抜けするほどうまくいったからな」
「⋯⋯、⋯⋯囮?」
 不穏な一言にザックは眉間へ皺を寄せる。が、アールがザックの全身を舐めるように検分し、腹のある一点を見た途端に片眉が跳ねたのを見て、無意識に後退った。
「あれに貫かれたな」
 確認は剣呑さを帯びている。ザックは今度こそ意識して距離を取りつつ、ジワジワ疼き始めた腹と、それよりもずっと前からひどく熱持つ股間を隠すように身を屈めて、言い訳がましい謝罪を述べた。
「や、夢の話だし、されたくてされたわけじゃないっていうか、えっと⋯⋯その、悪かった。でも仕方ないだろ?」
「言いたいことはそれで終わりか?」
 アールがそう言うや否や、いつの間にか足元に伸びていた触手がザックの身体を絡め取った。うわ、待っ、と叫ぶザックを引き倒して薄い布地の下へ滑り込む。悪夢の中で散々弄くられた陰茎や、ひくつく後ろの襞へと好き勝手にまとわりついてくる。
 尿道口を細い触手に浅くほじられただけでぶわりと汗が噴き出した。みっともなく腰を浮かせるザックの頭を踏みつけて、アールは冷淡な笑みを浮かべる。
「不埒な奴隷には躾が必要だろう。勝利の凱旋とはいかないが、散歩もたまにはいい。⋯⋯さ、案内できるな?」
「さ、さんぽっ⋯⋯って、まさかこのまま⋯⋯ん゛ごぉっ! おご、んふぅう゛っ!」
「喋らずにさっさと歩け」
 驚いたように見上げてくるザックの口へ太い触手を押し込み、アールは触手椅子へと横になった。満足に話せなくなってもなお動かないザックの尻を膨らんだ触腕が打ち据える。
「ッう゛ふうぅっ! ぎぃっぐ、ィぎいぃい゛っ!」
 甲高い音が闇夜に響き、ザックは身を跳ねさせて進み出した。
 ほんの少しでも遅れると後ろから鞭のように触手が振るわれる。必然的に絶えず進むほかないが、このままでは路地を抜けてしまう。路地の先には宿場街が広がっており、この時間なら皆寝ている頃だが、道で酔いつぶれていた者が目を覚まして帰ってくる可能性はゼロではなかった。
 ザックの脳裏に知り合いの顔が浮かんでは消える。もし、万が一、彼らに会ったら、彼女らに見られたら。そう思うと膝が震えて、同時に中も締め付けてしまい、暴れる触手の快感に陰茎からつうっと先走りが滲み出した。
(あっ、あぅ、⋯⋯嫌だ⋯⋯見られたく、ないっ⋯⋯ィひッ! ほ、ぉっ! おふっ⋯⋯こんなっ⋯⋯言い訳、できなぃぃっ!)
 夢の中の光景が蘇る。偽物とはいえ、愛しい弟たちの手で嬲られ、彼らの前でみっともなく泣き喘ぎながら果てそうになった自分。あれが自分の本性なのだと思うと恐ろしかった。そんなはずない、と声を大にして言いたくとも、耳の奥には彼らの嘲り声がまだ残っている。
『妹にチンポ触らせて悦ぶ変態』
『兄ちゃんのマンコ、すっごいグチュグチュ』
『ザック兄ぃはボクたちよりエッチなことのほうが好き』
(――ちがう、ちがっ⋯⋯そんなんじゃ、なっ、ひぃいッ! んっ、お゛、ぉほっ! そ、そこぉお゛っ、グリグリ、やめ゛っ⋯⋯はへっ! あ゛ぁぁッ、イぃ、イ゛ィ、いぃい゛⋯⋯ッ!!)
 一歩踏み出すごとに中の触手が波打ちながら奥まで埋め尽くす。頭が真っ白になり、快感以外の一切が曖昧になる。歯を食いしばって堪えても、次の一歩、次の一歩、そしてまた次と進むうちに、蕩けて涎が溢れ出てくる。
「んふぅ、んんっ、ふうぅ~~っ⋯⋯う゛っ、く、ぅんっ⋯⋯くふぅっ⋯⋯っ!」
「まるで雌犬だな。盛りの付いた犬が同じように鳴くんだ。ではソレは尻尾か?」
「――お゛う゛ゥっ!? お゛ふぉっ! お゛ッぐ、ん゛ほぉっ!! ッほ、ほぉっ⋯⋯ッヒ、ぃひっ⋯⋯!!」
 アールの言葉に同調するように、尻の触手がずるりと這いずり出て、下穿きを押し上げてぶんぶんと揺れる。連動して中もうねり、敏感な窄まりをこじ開けられて狭い肛内を舐めるように捏ね回された。湧き起こる異常な快楽に鼻水を垂らして身悶える。逃げるように足を進めると、もう通りの石畳が見えてきて、ザックの背筋に冷たいものが走った。
(⋯⋯や、イヤだっ、行きたくない、嫌ッ⋯⋯ほぉん゛っ! あ、っへ、前ずぽずぽ、や゛めっやめへ、い゛っぐ、ん゛ぎいぃいっ!! こんなのゃだっ、こんなのい゛やだぁッ!)
 必死にアールを振り仰ぐ。主君はうつ伏せのまま悠々と、惨めな四つん這いになったザックを愉しげに見下ろしていた。視線が合うと首を傾げられる。どうしたの、とでも言いたげな整った顔が恨めしかった。
 もうあと数歩で路地から出てしまう。ザックは尻だけを高く上げて頼み込むように床へ額を擦りつけた。動かなくなった奴隷の尻にアールが極太の鞭を打ち付ける。真っ赤に腫れ上がるほどの勢いで叩き付けられたそれにザックは声もなく全身を引きつらせたが、それ以上一歩も前へは出なかった。
 アールがザックの赤毛を掴んで引き上げる。口の中の触手を取り去り、涙と鼻水で汚れた横面を張って苛立たしげに言った。
「本当に物覚えが悪いな、お前は。それとも、家族を守るだの言っていたのは建前で、折檻が好きなマゾなのか?」
「っだ、誰かに見られたらあんただって⋯⋯、せめて部屋で、⋯⋯っ」
 懇願するザックの耳に足音が聞こえてくる。明らかにアールのものではないそれにざわりと鳥肌が立った。下半身を見れば足はガクガクと震え、下穿きは色が変わるほど濡れてぽたぽたと雫を溢している。
 誰かは分からないが、この路地に気づかずに通りすぎてもらわなくてはならない。そう思うのに影は丁度路地の前で止まった。
 左手に提げたランプに照らされた顔ははっきりとこちらを向いていて――そして、驚いたようにぎょろりとした目を丸めた。
「ザックぅ? オマエ、こぉんな夜中になぁにやってんだ⋯⋯、⋯⋯って」
 それはバラスだった。酒場で散々飲んだ帰りなのか、首から上が真っ赤になっている。
 憲兵へ届け出た後、事実が確認できない以上話をむやみに広げるな、と緘口令を敷かれてしまった彼は、今の今までふてくされて飲んだくれていたのだった。そして、じゃあもう一度立ち寄ってみるかと思い至ったのだ。
 上体をふらつかせる彼は夜でも分かりやすい赤毛を見て先にザックへ声をかけ、そして後ろのアールへ視線を向けて、腰掛ける椅子のあまりの異様さに硬直した。
 細いものから太いものまで、大小さまざまな無数の触手によって編まれた『生きている椅子』。粘液を噴き出しながらうぞうぞと蠢く極彩色のそれらに息を呑んだバラスは、おそらくは絶叫しようと息を吸いこんだ。
 しかし、それより先に彼の灰褐色の目へ赤い光が宿る。
「――っ、⋯⋯⋯⋯っ、⋯⋯!?」
 バラスが大きく口を開けたが、そこからはどんな音も漏れて来なかった。代わりに彼は驚愕の表情を浮かべ、おぞましいものを見るような目でアールを睨む。その身体は武者震いでもしているかのように震えていた。
 アールの術に抗っているのだろうか。もしくはこの距離で淫魔と遭遇したことに怯えているのか。そのどちらであったとしても、もはや抵抗はかなわなかった。
 アールが薄っすらと笑って答える。
「何をしているのか、と聞いたな。散歩だ。出来の悪い奴隷を躾けていた」
「⋯⋯、⋯⋯」
「こちらへ来い。お前もいたほうが良さそうだ」
 アールが闇夜に獲物を手招く。バラスはふらふらと歩み出し、ザックの前へ立ち塞がった。丁度路地と通りの境を埋めるように立つ彼は、手にしたランプの灯りで窺えるだけの周囲を確認し、ザックの汚れた顔や下穿きを認め、ショックを受けたような顔になった。
 対するザックは知り合いに見られてしまった衝撃で目を見開き、浅く息を吐きながらただただバラスを見返していた。触手たちが身体に巻きついて持ち上げ、バラスの目の前で開脚させようとしてようやく、思い出したように身動ぎする。そして激しく悶え始めた。
「や、や゛めっ! っいやだ、やめろ、ゃめてっ、や゛っ⋯⋯見るなッ!! 見ないでっ、おじさっ⋯⋯!!」
 足首へ、膝へ、内腿へと何重にも触手が絡みつく。暴かれたそこは暗がりでもわかるほどぐっしょりと濡れていて、なにかが布の奥で這い回っているのがはっきりとわかった。ぐじゅ、ずる、と湿った音が聞こえてくる。ザックは耳まで赤く染めて、両手で股間を隠そうとしたが呆気なく頭の上に縛められた。
 隠そうとしても隠せない尻が淫らに揺れる。ザックがどれだけ見るなと叫んでも、バラスは視線を逸らすことができなかった。
 バラスはザックの父の友人だった。だからザックのことは生まれたときから実の息子同然に可愛がっていた。ザックもよく懐いていたし、父親に怒られたときはバラスの工房へ家出してきたこともあった。並べてあった試作品の武器の数々に目をキラキラさせながら「さわっていい?」とたずねてきて、親の説教などすっかり忘れたようすで振り回しているのを見ているとつい笑ってしまったものだ。バラスが先に村を出てからも定期的にやりとりをしていたし、ザックの父が死んだと聞いて真っ先に王都へ来ないかと打診したのもバラスだった。
 そう、バラスにとってザックは眩しい存在だったのだ。
 ドワーフと人間のハーフであるバラスは、低身長の者が多いドワーフらしからぬ体格に恵まれたのもあって、若い頃は女遊びばかりしていた。そのせいで妻子は愛想を尽かしてバラスの元から去っていき、傷心のまま自暴自棄にフラフラして辿り着いたのがザックの村だった。
 槌の振るい方さえ忘れかけていた自分が、再び武器を生み出せるようになったのは、ザックの父や、ザックの存在があったからだ。
 そう思うからこそ、王都で働くようになったザックをいつも気にかけていた。淫魔の魔術をものともせずに立ち向かっていくザックが誇らしかったし、彼が携えるのが自分の鍛えた武器であることが嬉しかった。
 これから先も、ザックが傭兵稼業を続ける限り、自分は彼の武器を作り続けるだろう。彼の身体が、心が折れてしまいそうになったら、いつだって支えてみせる。そう思っていたバラスの目の前で今、ザックは血が滲むほど強く唇を噛み、泣きながら嬌声を嚙み殺していた。
「っぐ、っふ、うぅ⋯⋯ッ!! ん゛、っぎ! くふっ⋯⋯ふう゛ぅうっ!」
 魚のように身を跳ねさせ、腰をカクカクとはしたなく振っている。そのたびに布を押し上げる膨らみが同じように揺れて発情の臭いを撒き散らした。濡れた布地は陰茎と尻へぴったりと張りつき、そこへ出入りするモノの大きさや、冗談のような凹凸をまざまざと見せつけてくる。
 呆然とするバラスを放って、ザックはゆっくりと高められていった。
「はひッ! ひっぃ! ィっぐ、ひぎっ、はう゛ぅぅっ!! ん゛ふぅ、ぐぅぅう゛っ⋯⋯んン゛ん゛~~ッ!!」
 ぐぽっ、ぐぽっ、と抜き差しの音が響く。薄い布一枚隔てた先で、ザックが何を受け入れさせられているのかがありありと想像できた。水音は女を犯すときのそれと全く変わらない。ザックが見せる快楽に澱んだ表情はいつか股を開かせた女たちと似ていて、バラスは瞬きもせずにそれへ見入った。
 ザックの眉が悲壮に歪む。目がとろりと濡れて、犬のように荒く吐いていた息が耐えきれないとばかりに詰まる。
「っは、っぁ゛、はぅっ! ッヒ、っく⋯⋯ぃぐッ⋯⋯い゛ひぃいっ! イ゛ッ、ぐ、ぃぎっ⋯⋯イん゛ッぐ⋯⋯っぎ、ひぃっィい゛いーーッ!!」
 一際甲高い声を張り上げて、ザックは大きく背を反らした。がくんっ、がくんっと揺れて止まらない。しかし肝心の一物は勃起したままで、触手の動きは少しも止まることなく快楽に浸る身体を蹂躙した。
 遂にザックの固く結ばれていた口が綻ぶ。
「――っあ゛あァ!! っぎ、ヒィッ!! ぃ、や゛、いやら゛ぁあぁッ!! イっだ、イ゛っだがらっや゛めへ、やだっ見な、い゛で、見な⋯⋯ん゛お゛ぉおッ!! お゛ほっ、おう゛ぅっ、ふぐぅう゛っ!! イ゛っぐ、イグぅ、嫌っ⋯⋯ア゛ぁッあッ⋯⋯あ゛~~ッ!!」
 見ないでと言いながら、まるで見せつけてでもいるかのように股ぐらがなまめかしく震える。濡れた音はいっそうひどくなり、ザックは涎を垂らして悶え狂った。絶頂を主張する身体は細かく痙攣し、後ろの襞は服越しでもわかるほど太いモノを咥え込みながらパクパクと収縮を繰り返している。
「射精もしていないのにどこでイってるんだ? そこの男に教えてやれ」
 アールが触手の台座に腰かけてザックの腿に手をかける。ザックはヒィヒィ泣きじゃくりながら快感を逃がすように頭を振った。しかし、アールが下穿きに手を差し入れ、埋め込んだ淫紋に直に触れて力を注ぐと、イきっ放しの最中に底なしの焦燥感に駆られたザックが背筋を引きつらせながら濁った声を迸らせた。
「しっ、じりでっ、尻でイッでまず、尻がイ゛ィでずぅうう゛っ!! ぎもぢいぃッひぃぃい゛ッ!! イ゛グッ、いぐっ、あ゛~~ッ!! イぎひぬ゛ぅ~~っ! ッイっぐ!! あ゛ぉお゛っ!! お゛ッほォ!! どま゛、らな゛っ、い゛ィひぃイ゛い゛ぃぃッ⋯⋯!!」
「男のくせに尻だけ犯してもらえば満足か。じゃあこちらはこのままだな」
 アールがそそり立つ陰茎を気まぐれに握り潰した。ザックは真夜中だということも忘れて白目を剥きながら絶叫する。柔く敏感な海綿体から駆け抜ける激烈な痛みと射精欲求に、バラスの前ということも半ば認識できないまま涙声で哀願した。
「や゛ら゛ぁああ゛っ! チンポッ、チンポイがぜでぐだざいっ!! チンポイきだいでずぅぅッ! ずっとイけな゛ぐでつらい゛ぃっ、イ゛かせでっ、アール、ごしゅっ、ごしゅじんざま゛ぁぁッ!!」
 ザックの口から発される言葉の恥知らずな淫猥さに、バラスは一瞬気が遠くなりかける。これが現実かどうかわからなくなるような感覚に襲われていた。
 目の前で足を開いて射精をねだっている淫売が、あのザックだというのか。
 ザックがもう一週間以上射精を許されていないことも、直前まで虐め抜かれていたことも知らないバラスにとって、淫魔に泣きついて腰をへこへこ揺らすザックの姿は頭を金槌で殴られるよりも衝撃的だった。
 バラスがほとんど息もできずに眼前の光景へ目を奪われていることを知っているアールが、触手を伸ばしてバラスを引き寄せる。ザックの開いた足の間へ招かれた彼のゴツゴツした手を、アールの細い指が掴んだ。
 そのまま、ザックの下穿きに爪先を引っかけさせる。
「脱がせろ」
 そう、命令した。
 その命令は、実のところ何の強制力も伴ってはいなかった。バラスが手を動かさなければ、何一つ変わらないはずだった。しかし、バラスは両手をかけて、ゆっくりとずらしていく。
 ザックの腰骨が、鼠径部が、ぐちゃぐちゃに濡れた陰部が露わになっていく。
「やぁ、あ゛、あっ⋯⋯あ゛ぁぁあぁ⋯⋯ッ!!」
 曝け出されたソコは、バラスの想像をはるかに上回っていた。
 ボコボコと膨れた突起を無数に備えた異形の触手。細いモノから太いモノまであるそれが、陰茎と菊門にまとわりついている。夥しい数のそれらは一様に粘液を噴き散らして尻からぼたぼたと滴らせていた。肛門は粘膜が腫れて紅色に染まり、抜き差しのたびにめくれ上がっては触手に媚びて吸いついている。膨れ上がった陰茎は痛々しいほど反り返ってぬめぬめと光り、ぽっかりと空いた尿道口から顔を出した人差し指ほどの大きさの触手は頻りにのたうちながら奥へ、手前へ、と蠕動を繰り返していた。
 商売女相手でもここまでぐずぐずになったモノは見たことがない。一体どれだけの時間犯し尽くされればこうなるのか。バラスは物も言えずにそれを見下ろしていたが、アールが彼の手を取って尿道口に居座っている触手を掴ませると、ハッとしたように顔を上げた。
 アールが赤い眼を細めて笑う。人形のようだったはずの顔は明らかに嗜虐に歪んでいた。
「抜き差ししろ。お前が動かすたびにソレは太くいびつになる。許してやりたくなったら、最後まで抜いてやればいい」
「⋯⋯ソレ、って⋯⋯」
 発声を許されたバラスがオウムのように答えながら、手元の触手を見やる。弾力があるそれは何もしなくてものたうってザックに快感を与えていたが、その幹にはかえしのような突起が粒になって膨れていた。試しにずるりと手前まで引き抜く。途端にザックはひっくり返った声を上げた。
「アッぎゃあ゛ぁっぁああ゛ッ!!! あ゛っへぇ、あ゛ぇ゛っ、はへぇっ!! へぇっ⋯⋯ん゛ん゛へぇぇえ゛っ⋯⋯ッ!!」
 バラスは白目を向いて痙攣するザックを見て手を止める。が、アールは彼の手に手を添えた。
「奥まで」
 耳もとで囁く。バラスはごくっと唾を飲み、ごく浅いところまで飛び出してきていた触手を、ぷつぷつと、ぞりぞりと、尿道の奥深くまで戻していった。
 尿道と膀胱の間には前立腺が触れる箇所がある。そこまで触手が下りていくと、突起に管を抉られるザックは頭を振り乱して善がった。アールはそこで手を離す。
「好きなだけしてやるがいい」
 くす、と笑うと、アールは元通りに触手の椅子へ横たわる。寝転がって腕を組み、傍観するような姿勢になった。放り出されたバラスは一見途方に暮れたように見える。が、彼は明確にザックを見つめていた。
 ザックは大粒の涙を流し、鼻を啜りながら自身の主人を見上げている。
「お、ね゛が、アール⋯⋯イ゛ッ、いかせ、チンポイかせでっ⋯⋯これっ抜い゛てぇ⋯⋯!」
「よく見ろ間抜け。お前の穴を塞いでるのはわたしじゃないだろう」
 冷ややかに一蹴されて、ザックは視線をうろつかせた。下半身へ向かった視線が、指先へ、手へ、腕へと上り、そしてバラスを目を合わせる。
 ザックの前には、固まった無表情のまま、瞳の奥だけに言い知れない感情が揺れているバラスがいた。今まで見たことがない顔をした彼に一瞬声をかけるのを躊躇ったが、疼きが限界に達しているザックは恐る恐る口を開く。
「ば、バラス、おじさん⋯⋯そ、それっ、⋯⋯抜いてッ⋯⋯」
「⋯⋯⋯⋯」
「ぉ、⋯⋯お願い⋯⋯っ」
 我慢しきれずに腰が揺れる。みっともなく前後するのを止められない。イきたい、射精したい、ザックの頭を占めているのはその感情ばかりで、バラスが何を考えているのかは全く分からなかった。
 だから、バラスが触手を持ち直したときは、ようやくイかせてもらえるとしか思えなかった。
 奥深くまで突き込まれた触手の先っぽをつまんだバラスが、ふっと息を吐く。
 そして、一息にずるるるっと引き抜いて――抜き去る直前でピタリと止めた。
「――ッほん゛ォお゛お゛おぉォオ゛~~ッ!!! お゛っひ、ヒィイ゛ッ、ひッ⋯⋯あ゛っえ、な゛んっ、な、なんえ゛ッイげな、イ゛っ、でな、出なひっ、出な゛⋯⋯ッ、ふ、ぇ? へっ⋯⋯なん゛っ、で⋯⋯!?」
 射精できることを信じて疑っていなかったザックが、精液が一滴も出てこないどころか、抜かれてもいない触手に目を白黒させる。彼は馬鹿になったように股間部を凝視し、それからさあっと表情をなくした。
 のろのろと、亀の這うような速度で、バラスの顔を見上げる。
 バラスはザックの顔を見ていなかった。彼が見ていたのは自分が掴んだ触手で、引き抜いたソレが先ほどよりもわずかに太くなり、凹凸が増えていたことだけを確認していた。
 ――そして、再び管の中へと触手を埋めていく。
「ア゛ッ!! あがぁあ゛ッ!! や゛めへっ、入れな゛ッ、なんでぇえ゛ぇぇッ!? 嫌ぁッ!! 嫌だぁあ゛ッ! 抜いてぬ゛いて抜いでぇッ、出ざせてッイがぜてっもう無理、無理゛ッ、無理な゛んだってぇぇえ゛ッ!!」
 ザックが泣き叫ぶが、バラスはそれが聞こえていないかのようにピクリとも表情を変えず、それ以上進まないというところまで入ると同時に一気に引き抜いた。
「ほォ゛っへぇェ゛え゛ええッ!! え゛っ、ぇ⋯⋯い゛ぎぃぃぃい゛いッ!! 入れ゛な゛いれぇぇえっ!! 抜いでッ、ぬ゛い゛てっ、最後ま゛でッ⋯⋯ん゛んぉお゛ォお゛ほおお゛ぉ~~ッ!!」
 触手が全て出されることはない。必ずギリギリの手前で止められ、また奥へと帰ってきた。ザックの顔が驚きから恐怖へと変わっていく。許されると信じていた安堵が、際限なく責め抜かれると知った絶望に塗り替えられていく。
「イがぜでええぇぇえ゛ッ!! イ゛がぜっ、イきだいッイ゛っぐ、イ゛ぎっ、ぃひっ!! 抜いでっ、ば、バラスおじしゃ⋯⋯ほォぉう゛ッ!! や゛ら゛あァぁぁア゛ッ!! あ゛~~ッ!!!」
 尿道を行き来する触手は徐々に太くなってきていた。敏感な粘膜を柔い突起が舐めるように滑っていく。それが前立腺の周りをずるるるっと擦っていくたび舌を突き出して無様に空打ちした。
 射精と同じ、尿道を何かがすり抜けていく感触。しかし一向に解放は訪れない。むしろ尿道が少しの隙間も許されずに少しずつ拡張されていくのを頭のどこかで感じていた。
(やだ、ゃだ、いやっ、抜いてっ、取ってぇえ゛!! なんで、おじさっ⋯⋯な゛んでっ? なんで抜いてくれなッ⋯⋯ン゛んっへぇえ゛ェ⋯⋯!! もぉら゛め゛えぇえ゛ッ!! イぎだいっ!! ヂンポぉッ!! チンポい゛かせてっ死ぬ゛ッ死ぬう゛ぅぅぅ⋯⋯ッ!!)
 ザックが白目を剥いて病的なまでに痙攣する。バラスはそれを見下ろしながら、じゅぷぷ、ぶちゅちゅちゅ、と卑猥な音を立てる手元を見下ろしてぼんやりと呟いた。
「ああ⋯⋯ひどい夢だ」
「夢?」
「夢だろ、こりゃ⋯⋯。ハハ、それともアレか、これもあの淫魔の仕業なのかね」
「さてな。早く覚めたいなら手を動かすことだ」
 まるで他人のやっていることを見ているような言いぐさに、アールは口もとの笑みを深める。バラスは言われたとおりに抜き差しを速めた。加速度的に膨れていく触手にザックは悶絶し、泡を噴いて背を反らした。
「やべでェぇえ゛ェッ!! も゛ぉ入らな゛っ、チンポ千切れ゛ぅぅ!! ごわ゛れるっ潰れ゛るッ中から゛千切れ、あ゛っぎひぃぃッ!! や゛め゛へぇぇえ゛ッ! ごべんなざ、ッごべ、ゆるじっ、い゛ッひィぃい゛ぃーーッ!!」
 すでに尿道は見てわかるほどギチギチに広げられ、触手が抜かれるたびに粘膜が引きつれてこそげていた。限界まで薄く伸びた柔い膜の奥にある悦点を、凶悪な突起に何度も何度も執拗に捏ね潰されて、あまりの快感に小便すら垂れ流しになっていたが、精液はまだ許されなかった。
 ザックの性器は煮えたぎった油でも詰まっているかのように熱く膨れ上がり、血管はピクピクと脈打ち、壊れたように先端から絶えず汁をこぼしている。触手が戯れに根元から亀頭まで巻きついて扱くと、ザックは甲高い声を上げて快感を訴え、イけない、イけないと泣いては首を振り、項垂れ、反り返り、目を蕩かせて無様に喘いだ。
「ゆるひでぇぇえ゛ぇっ⋯⋯ひぬ゛、ひっ、ひん゛、じゃ⋯⋯イ゛ッ、がぜ、で⋯⋯だしゃせてッ⋯⋯あ゛ァあ゛あぁア゛ぁ⋯⋯ッ!!! お゛じっごの穴ばかに゛なるぅぅう゛ッ!!」
「⋯⋯全然覚めねえな、この夢。欲求不満ってやつなのかな⋯⋯」
「お゛、ぉいしゃっ⋯⋯ゆ゛めじゃないがら゛あァッ!! ゅめ、じゃ、な゛⋯⋯ッきひィぃい゛イ~~ッ!! も゛ぉイいがぜでェぇぇッ!! イぎだいよぉ、イ゛ぎだいぃ、チンポ出したぃっ、せぇえ゛きっ、しゃせッ⋯⋯あがッあン゛ぁァア゛ああ~~ッ!!!」
 抜き差しするにも手間取るほど膨れ上がった触手はもはやバラスの親指ほどの大きさになっている。括約筋に乏しいはずの尿道口がミッチリと咥えて離さないことからもその圧迫感が知れた。
 いい加減に引き抜くのが面倒になったのか、バラスは手を止めて息を吐く。頭を掻き、濡れた手を見て不快そうに眉をひそめた。
 アールがザックの後ろに回り込む。ザックの尻を突き出させ、バラスへと上体を預けさせた。バラスは倒れ込んでくるザックの崩れた顔を見つめ、その汚れた目じりを拭っている。
「ひ、ぎぃ⋯⋯ちっ、ちぎれ゛っ、チンポぉ⋯⋯っし、ぬ゛⋯⋯ッ、しっ⋯⋯」
「この程度で音を上げていいのか? まだ中出しもしていないが」
 そう言いながら触手に塗れた菊門へとアールが性器を押し当てると、ザックは目を見開き、壊れたような媚びるような笑みを浮かべた。
「無理ッ⋯⋯む゛、無理、あー、る⋯⋯ほ、ほんとに、無゛ッ⋯⋯」
「精々悦べ」
 その一言は処刑の合図に等しかった。
 体内を埋めていた触手の群れが一斉に出ていく。すっかり解れ切った肉膜を根こそぎ抉って、長大な性器がズルズルと奥の奥まで押し入った。
 ザックは雷に打たれたように硬直し、ぐるんっと白目を剥いたがすぐに戻ってくる。声もなく舌を突き出して反り返ったが、アールが容赦なく腰を打ち付け始めると、断末魔に近い絶叫を上げながら涎を撒き散らして泣き縋った。
「あ゛ーーッ!! あ゛ァア゛~~っ!! あ゛ぎィぃッぃひィい゛いい゛っ!! ほォん゛っ、お゛ぅっほォ、ほッへ、お゛ん゛ぐぅうウう゛っ!! じぬ゛ゥぅうッぅうっ!! っご、ごろ゛ひでぇぇえ゛ェえっ!! ごろっ、ころ゛じっ、じなぜでェぇぇえ゛えェえ~~っ!! ア゛ーーーっ!!!」
 狂ったような奇声を上げて跳ね回るザックを見たアールは心底愉快そうに笑った。わざと快感が長引くように悦点へ腰を擦り付け、奥をずぐずぐと捏ね回す。慣れないように動きを変えながら、ザックの陰茎へと手を伸ばした。
 膨らみ切った触手に触れる。と、触手がひとりでに前後し始めた。バラスが動かしていたときよりもはるかに早く、わざと前立腺を抉り潰す動きで。
 それを感じ取ったザックが金切り声を上げて許しを請う。が、アールは笑ったままだ。
「⋯⋯ッッヒ!! っイ゛、あ゛⋯⋯っぎ、ぐゥ⋯⋯ィッ、ぎゃ、⋯⋯ァあ゛あ゛ぁァァッ!! っヂ、⋯⋯チンッ、ポォぉお゛っ⋯⋯!! ら゛べぇえ゛へえェぇぇッ!! ゆ゛るじ、ゆ゛っ、るっ、じぬ゛、ひぬ゛っ、ゅる゛ひ、ひィィぃい゛っ⋯⋯!! っか、へッ⋯⋯へェ゛ェッ⋯⋯へひっ⋯⋯~~ッ!!!」
 アールの太すぎる陰茎と、膨れ切った触手が前立腺を挟み込んで触れ合う。まるで粘土でも捏ねるようにクニクニと押し潰されたソコは尋常の範囲を逸脱した悦楽を脳髄へと流し込んだ。射精を伴わない絶頂は全身を駆け巡り、主人の性器を受け入れて悦びっ放しの腹は際限なく感度を上げ続ける。ただの一度も解放を許されない性器はいっそ哀れなほどに立ち上がり、尿道を貫く質量で竿まで膨らませながら萎えることもできずに別の生き物のように痙攣していた。
 アールは激しく打ち付けるのを止め、ねっとりと中をこそぐ動きに切り替える。ザックの陰茎をスルスルと撫でながら、その耳元で囁いた。
「出したいか?」
 ザックはほとんど白目を剥きながらカクカクと首を縦に振る。
「知り合いの前だがいいのか。犯されるだけならまだしも、射精まで見せたいと?」
 呆れたような、嘲るような声音だったが、ザックは首を続けて振った。だらりと垂れた舌を揺らし、鼻提灯を膨らませながら狂ったように首肯するさまは、正気を保っているとはにわかに信じ難かったが、アールは目を細めて言う。
「淫乱が」
 そして、案山子のように突っ立っているバラスへとザックを抱きつかせ、スパートのように腰を使い始めた。
 開発され尽くした肉を押し開き、夥しい突起で舐めこそいでいく凶悪な一物。ザックの後腔は拷問じみた凌辱にも慣れて、ゾリゾリと擦られるたび素直に快感を拾い上げて神経を興奮させた。前も後ろも限界まで埋められ、柔いところを好き勝手に犯し尽くされている。ザックはバラスの前で淫蕩に溶けた顔のまま獣のように喘ぎ、失禁し、爪の先まで痙攣させながら襲い来る快感に無力に打ちのめされていた。
「⋯⋯ザック?」
「っ、――ッ!!!」
 バラスが不思議そうに見下ろしてくる。性感に支配されて自我が崩壊しかかっているザックを呼び戻すように。しかしそれだけではとても戻りきれなかった。際どい綱渡りの揺らぎをかすかに引き寄せただけで、ザックの心身の大部分は極悦の境地に追いつめられている。
 ごちゅ、と奥に押し当てられ、アールの陰茎の根元が膨らんだのを感じたザックは、蛙のように足を開きながら絶望とともにそれを受け入れる。
「イけ」
 言いながら、アールはザックの中へと射精し――同時に尿道を責め抜いていた触手を一気に引き抜いた。
 淫紋の術式を弄り、ザックの射精に許可を出す。ナカイキと中出しと射精の絶頂感を全て同時に味わうことになったザックはヒュウッと喉を鳴らし、バラスの見ている前でゆっくりと、一本の弦のように、筋肉が引き千切れる限界寸前まで反り返った。
「⋯⋯⋯⋯っっっ⋯⋯⋯⋯っイ⋯⋯⋯⋯ひ⋯⋯⋯⋯、⋯⋯ッ、っ、っ⋯⋯ひッ⋯⋯!!!! へ、っへ、へ、ぇ⋯⋯へひっ!! ひッ! ⋯⋯ひぃイ゛ッ!! ぎッ⋯⋯ひ⋯⋯ぃ⋯⋯ッ、~~~ッッッ!!!」
 どぷ、どぷ、と無慈悲に精液が注がれていく。ザックの陰茎から、溜まりに溜まった固形物のような濃厚精液が、神経が剥き出しと言っていいほど過敏になった尿道の管を軟体動物のように這い上り、遂に尿道口から顔を出した。
 通常の射精と比べて勢いは全くなく、とろっ、と溢れたかと思うと止まり、アールが奥を突くとつられたようにまた溢れる。いっそ慎ましいそれにアールが手を添えて、根元から一気に扱き上げてやりながら精嚢を押し上げるように腰を使うと、ようやくそれは勢いを増してきた。
「――ッ!! ⋯⋯ッ!!! っ、っ、ッ⋯⋯ッヒ、ィ⋯⋯ィっ⋯⋯ィ゛ひぃぃッ!!!」
 漏れる、という表現が正しかった射精が、噴き出すというべきそれに変わる。
 パンパンに腫れた精嚢がキツく収縮し、尿道口から我先にと子種が宙へ噴き上がった。濁り切った白濁はぽかんと口を開けるバラスの手へ、服へ、顔へとぶち撒けられ、それでも終わらずに床へと垂れ落ちる。気絶できないはずのザックは白目を剥き切ったまま好きに揺さぶられ、硬直しっ放しでまともな喘ぎ声すら上げなかった。
 アールが萎えないモノで中を掻き回し、精液を余すところなく塗りたくって、肛門のフチからぶちゅぶちゅと聞くに堪えない音を響かせながら溢れ出てくるようになった頃に、ようやくザックの喉から音が迸り始める。
「ッお゛、⋯⋯オ゛ッぉぉ⋯⋯ッ!! ⋯⋯お゛、ほォ゛ぇ⋯⋯っ、オ゛ッ⋯⋯!! オ゛うゥう゛⋯⋯っぐ、ぅほぉお゛っ⋯⋯ぉっ、お゛っ、ッオ゛ォ!! お゛っ⋯⋯ぐ、おぉオ゛っ⋯⋯!!」
 腹の底から絞り出すような、喘ぎとも呼べないような声を上げて、ザックは三重絶頂の強烈な余韻に脳髄まで蕩かされた。幼少時から見守ってくれたバラスが自身を支えてくれていることすら頭の中からすっぽりと抜けている。空白に近い脳みそを埋めているのは神経の電気的な興奮――処刑じみた恍惚の極感のみだ。それだけで人格を崩壊させる強度を持つ快感は、しかしザックを壊さなかった。受け入れられる許容量一杯の、ほんのわずかに強まれば即座に発狂をもたらすだろう絶頂感だけを休みなく全身へと見舞い、それ以上は脳に留め置く。故に絶頂感は引かない。留められた絶頂が終わるまで、延々と、最高最悪の極悦が遠慮なく容赦なくザックの全身を貫き続けることになる。
 そこに一切の慈悲はなかった。
「ほン゛っ、ォお゛おッ、オ゛ッ⋯⋯お゛んォぉ~~⋯⋯っ!! ぉっふ、ぉ゛、お゛ッ、ォほぉ゛ッお゛へぇェっォぉお゛ウぅ~~ッ!! お゛う゛ゥオ゛ぉ~~っ!! ぁッが、ァはぁア゛ぁ⋯⋯っ!! あ゛ーッ!! ァあ゛ーッ!! あ゛ァぁア゛あ゛ぁ゛ーーッ!!」
 絶頂に押し上げられっ放しの全身が収縮と弛緩を繰り返す。涙腺が壊れたかように止め処なく涙が伝い、唾液と混ざって顎からボタボタと滴った。肌という肌に鳥肌が立ち、アールが戯れになぞるだけで容易く果てる。主人を咥え込む後ろの襞は意思を持ったようにモノをやわやわと舐めしゃぶり、吸いつき、圧迫し、陰茎の凹凸から閃光のような快感を受け入れてはまた痙攣した。
「ッァア゛ぁぁア゛あ゛~~っ!! ⋯⋯あ゛~ッ、あ゛ーっ⋯⋯あ゛っ、へ⋯⋯あ゛う゛ゥぅっン゛ァあ゛あぁぁァあ゛ッ!!! ほォッお゛ほぉお゛ーーっ!! あ゛ッへェえ゛ええ゛ぇえっ! かへっ⋯⋯ひ、ぇへ⋯⋯へっ⋯⋯あ゛ぉっ、お゛ぉほっ⋯⋯ァっひィぃぃぃイ゛い゛ぃぃっ!!!」
 絶え間なく続く狂ったような絶叫に、バラスはようやく気を取り戻す。開けたままだった口に混じり入った精液へ舌で触れ、その味で現実を理解したようにすうっと息を呑んだ。
 表情が消える。額に脂汗が浮き、青ざめた頬へだらだらと伝った。
 地獄の極刑に処されているザックの後ろで、悪魔は静かに笑みを浮かべている。
「――それで、目は覚めたか?」
 彼はザックの陰茎から涎のように伝い落ちる精液を指で掬い、わざとらしく糸を引かせて口へと含んだ。味わうように噛みしめ、べろりと舌を出して白濁を見せつけた後に、腰を打ち付けてザックの金切り声を堪能する。
 勝利の興奮と、絶頂に狂乱する肉体からもたらされる純度の高い精気。ふたつが合わさって得られる悦びは何ものにも代えがたく、濃密な美酒にでも浮かされたように彼は珍しくその頬を染め、哀れな人間たちを前にしてうっそりと目を細めた。

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