黒子のバスケ
不時着の過程
2 膠着
黒子×火神/青峰←黒子前提
青峰大輝には気づいたことがいくつかある。
ほぼ全て、気づいてから投げた。めんどくせえし。
*
たとえばそれは、黒子と火神のことであった。
何度かストリートでやり合うたび、ころころ雰囲気が変わっていく二人だったが、最近ようやく落ち着いた。
落ち着いてから、黒子がいやに青峰にやさしい。
火神は、大して変わらないようで、けれど黒子のそばにいつもいるようになった。
「火神くん、日焼け止めちゃんと塗ってください」
「わあってるよ」
ベンチで靴紐を結びなおしている火神の前に立ち、ボールをかかえている黒子。日焼け止めねえ。青峰はそんなもの塗ったことがないのだが、幼馴染には「室内スポーツでそんなに真っ黒なの大ちゃんくらいだよね」と感心か嫌味かそれとも率直な本音かあいまいな意見をもらっている。
確かに、日差しはきつい。夏到来といったていで、ギラギラと灼熱の光線がからだに差している。コンクリートは焦げ付き、靴底のゴムが気になる熱気だ。
「おせえぞ、バーカ」
「うるせえよっ」
後頭部を掻きながら笑い混じりに急かすと、日焼け止めのクリームを手の甲にまぶしながら、火神はどなった。
ぷちゅ、と音を立てて、白い液が肌に乗る。黒子はそのさまを見つめていて、青峰は黒子の喉が上下するのを視界の端に入れ、すぐにその記憶を忘れた。
露出している腕、足、首筋、顔へ、黒子はてきぱきと指示を出す。
青峰は飽きて黒子からボールを奪い取り、くるくると回しながら工程を眺めた。
やがて、満足したらしい黒子が、ぽんぽんと火神の頭をたたく。火神はにやりと笑い、ベンチから勢いよく立ち上がった。
「よし、やんぞ青峰。今日は俺が勝つ」
「はっやれるもんならやってみろよ」
「ふたりとも、熱中症には注意してくださいね」
火神と入れ替わりに座った黒子が、同じ日焼け止めを塗りながら、背中に声をかけた。
「おう、お前も早く来いよ」
火神がからっと笑って、クラクラしそうな光に埋もれる。
光の中で、青峰はボールが弾む音だけに、耳を澄ませる。火神の息が獣のそれに変わっていくのを、肌で感じる。
この高揚感だけあればいいと、青峰は本気でそう思っている。
真っ白に染まった頭と、世界で、火神は笑い、黒子はそこにいて、ボールと共に青峰は動き出す。
空には雲ひとつなかった。